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ABRUPT
「凛伽、ばあさんのお見舞いに行くんだろ?」
彼氏の旺志郎は、口をとがらせて車から降りた。
寒さが顔を見始めた初冬の空の青は、すっきりとした晴れ間を覗かせ、少しばかり肌寒い風を呼び寄せていた。
海無し県に住む私と旺志郎は、毎年季節の変わり目に、車で祖母の住む海の見える場所へお見舞いを兼ねたドライブデートを楽しんでいる。
初めは祖母に緊張していた旺志郎も、今では気兼ねなく話せるほどになっていた。
今日はそのお見舞いに向かうために、彼が車を出してくれていた。私の家に到着してから一時間くらい経ってしまったのが事の発端だ。
いつまでも仕度のかかる私に嫌気がさしたのであろう。買っておいた缶コーヒーを一気に飲み干し、ハンドルに強く叩きつけた。
教習所以来、一度も車を運転したことのないペーパードライバーの私は、彼の優しさに甘え助手席に飛び乗り、いつものように祖母の住んでいる町に向かう。
祖母のお見舞いがてら久しぶりのドライブデートに浮かれて時間を忘れ、昨日から用意していたはずの服を横目に、あれやこれやと再び衣装選びに夢中になっていた。
「お待たせ」
車に急いで乗り込むと、彼はあきれたように呟いた。
「この前買ったお見舞い用の菓子は?」
「あっ……」
慌てて取りに戻る私の後ろ姿を見て、彼の大きなため息と、中身のない冷たくなった缶コーヒーを握り潰す音が、背中にジリジリと響いてくるのを感じていた。
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