ABRUPT

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私の家から車で片道三時間かかる場所に、祖母は住んでいる。 足腰が弱くなり自力で自足歩行が難しくなった私の祖母は、五年ほど前から江ノ島の海が見える療養施設に入所している。 幼い頃は、祖母の家に遊びに行くと、必ず私を近くの駄菓子屋さんへ連れていった。私の手を取り大きな硬貨を一つ乗せ、「これで好きなものを買いなさい」といつも私に手渡してくれた。 その頃はガムやらスナック菓子やら、お気に入りのお菓子を探して三つ選んで買うのが私の楽しみであった。 残ったお釣りは私のお小遣いにもなり、計算高くそれを貯金しようと自分なりに計画を立て、お菓子を余分にねだったりすることもあった。 そんな私を祖母はいつもにこにこ笑って笑顔で迎えてくれていた。 祖母の家の裏にある小さな竹やぶの向こうには川が流れており、近くには竹の子が生えている。その竹の子を採ろうとして、足が滑り土手を転げ落ちてしまった祖母は、運良く大きな怪我は免れたものの腕を骨折した。 しばらく入院していたせいであろう。体力は以前よりも戻らずに、徐々に衰えていくのが目に見えてわかるようであった。そのまま療養施設に入ることになり、家からさほど遠くない場所ではあったが、家に帰りたいといつも嘆いていた。 気力を失くしかけていた祖母を元気づけようと、私が時々顔を見せることでほんの少しだけでも気分が落ち着くならと、出かけることにしたのである。
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