ABRUPT

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ビル街から雑木林の一本道へと走り、そこを抜けると太陽に反射したキラキラと波打つ海が見えてくる。 カーブを曲がった先の交差点で進路を右に変えると、祖母のいる療養施設に辿り着く。 旺志郎は昼食に寄ったサービスエリアから相変わらず落ち着かない様子で、上の空で車を降りた。 気の聞いた会話もできないまま祖母のいる部屋に向かう私たちは、無意識に少し距離をとって歩いていた。 「おばあさん! 元気してる?」 祖母の前では何もなかったように、わざとたくさん笑ってみせた。二人の余計な感情よりも、祖母との時間を今は大事にしたかったからだ。 何があったとか、どこへ行ったとか、ありったけの世間話を思いつく限り話した。いたっていつも通りに。 旺志郎は、「コーヒー買ってくる」と言ってしばらく席をはずした。私と祖母の二人きりの時間を作ってくれる。 「それで今日はどうしたんだい? 凛伽、何かあったんかい? 二人とも元気ないねえ」 ドキッとした。どれだけ隠しても祖母には全てを悟られてしまう。 「何言ってるの、おばあさん。何にもないよ。また来るから、それまで元気しててね」 そう言い残して、先に車でコーヒーを片手に待っている旺志郎のところへと私は帰った。
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