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怯えるような木々達をそっと両腕で抱え、念じ続ける。大丈夫、怖くないから私をどうか信じて、と。
「……たまげたな、流石だよト゚ロシー!」
トトの称賛する声に瞼を開けると、山毛欅は幹も枝も輝きを取り戻し、新しく伸びた芽からは双葉すら開いていた。
それ以来、トトの家の庭や裏山へ通い続けている。己ながら驚くほど順調で景色は生まれ変わり、もうすぐ冬の扉を叩くと言うのに沢山のherb達が咲き誇り始めた。
そして、不思議と〈外〉への境を超える度に、その時間が短くなったのは気のせいかしら……?
「ありがとう! これで望み通りの杖が作れるわ!!」
ぼんやりしていると、取り囲む東の丘のお姉様方の一人が私の手を取り、頬高に微笑まれた。日差しを浴びたそばかすがキラリと輝く。実ったばかりの果物のような喜びに似て、嬉しくなる。
「お役に立てて光栄です」
「奇跡みたいな魔法ね、ドロシーはここ Salumu一番の魔女になれるかもね!」
「いえ、そんな……畏れ多いです」
「強ち間違っていないかもね。このまるで時を戻しているみたいだもの!!」
私を囲む温かな言葉の中、急な虫の知らせのように、ぴんと糸のように胸の奥で何かが張りつめた。
……ただ、私はHerb達の「そうありたい」という声を聴いているだけ。時を戻すなんて大それたこと、言い伝えられる伝説の魔女達の中にもその術を可能にした者は稀有なこと。例えば、何か物質を復元させる魔法を操れたとしても正確に元に戻した訳ではなくて、元の形の幻を見せているだけ。まやかしを見せているだけ、とスカーレット叔母様から教わった。
時の川を遡上するなんてこと、魔女にも不可能だと。
その時、するり、と考え込む私の頬を撫で付けるように赤いものが背後から流れてきた。
「まぁ、こんな所で魔法の練習をしているの? 迫るSAMHEINの祀りに向けてかしら。まるで見せびらかせしているみたいね」
赤い蛍。レベッカお姉様とアガサ様の護衛団のお姉様方だ。
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