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悪夢のような光景はまざまざと頭の中で甦り、消えてくれない。
まさか〈外〉があれほど怖いところなんて思いもしなかった。
昔からスカーレット叔母様からお話は聞いていたけれど、狩られる様をつぶさに教えて貰ったことはなかったし、レベッカお姉様をはじめとするセイラムの森に集う魔女達は忌み憚り、普段は〈外〉のことを口にもしない。
「セーラお母さんは、常にアガサ様とご一緒だったのでしょう? 何故、わざわざ〈外〉なんかに出てしまったの? そんな簡単に魔法を使えたのなら、すぐにでも〈外〉の者に捕らえられると分かったはず」
ティトゥバ様から相伝された結界内にいられることで安全だったのに。それに確か、と昔教えられたことが頭を擡げる。
「スカーレット叔母様のお父様とお母様、つまり私の御祖父様と御祖母様もかつて〈外〉で、……狩りに、あったのでしょう? セーラお母さんはスカーレット叔母様を守るようにして生き延びたって。〈外〉がどれだけ怖いのか知っていたはず、それなのにどうして?」
「ドロシー、落ち着いて」
ふわり、と絹のような感触に包まれる。
ベッドから半身を起こしたスカーレット叔母様に抱かれていた。痩せたお身体からはほんのりと花の香りがする。
「ごめんなさい、スカーレット叔母様……私、混乱して……」
「可哀想に……何か嫌なものでも見たのね、ドロシー」
「アガサ様が」
――いえ、あれはアガサ様じゃなかった。けれど、その御口を借りた別の何かが告げていた……。
でも、何て言えばスカーレット叔母様に伝わるのかしら分からない。知らぬうちに乱れていた呼吸を抑えながら、私はゆっくりと続ける。
「仰ったの……アガサ様、が、
『この運命から逃れられない』
って。魔女が〈外〉で仕打ちに合うことは定められたこと……。だから〈結界〉を張り、御守りなさっている……それなのに、セーラお母さんは破って〈外〉に出たのでしょう?」
「――それは、……私にも分からないのよ」
「え」
「……妹の私でも、あの御二人の間に入る隙など毛頭無かった。そう、まるでコマドリの比翼。〈防御〉のアガサ様を支えるのがセーラの魔術で、あまりにも強力だからと、年の離れた私は近付かせて貰えなかった」
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