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1. お外はとても怖いところ
カタカタと鳴り続けているのが、自分の体だと漸く気が付いた。
「お主のしたことがSalemの森にとって、どれほど危険なことか分かるか?」
スープに混ざっていた小石を吐き出すように唇を尖らし、アガサ様が御声を発する。その反動で放射状に敷き詰められた広場の石畳がぐらり、と揺れた。夜空にぶら下がる三日月すら吹き飛んでしまいそうに、強い。
「お主がしたことの意味を問うておる。自分がしたことの意味が分かるか? それとも、分からないのか?」
「……ご、ごめ……、んな、さ」
慌てて頭を地面に付けると、ひんやりした。実りの時期を終えた土は乾いて、おでこが触れただけで冬の訪れを知らされる。解けた髪に枯れ草が絡まり蓑虫のように体を縮めた私は、そっと足元から見上げた。
セイラムの森一帯を統べる長老――Agatha様。
流れるような濡羽色の髪を黒衣のマントにたらし、広場の祭壇に立つその御姿は、まるで世界中の闇を吸い込んだ大木。このセイラムの森を支えるよう。その周りを、同じく黒装束のお姉様達がぴくりともせずアガサ長老を盾の如く囲んでいる。
集会場で跪く私の頭につめたく注がれる視線、その白目はナイフで切り落とした半月のかたち。
アガサ様もお姉様達もみんなみんな、森に侵入した害虫を見つけたように睨みつけている。
害虫。そう、私のことを。
ぎゅっと両腕を抱えると、まだ私の体は小刻みに震えていた。
「お主のために言っているんだよ、分かるね? ドロシー」
Dorothy。
古代ギリシャ語でΔωροθέα(Dōrothéa)“神の贈り物“の意味を持つ――それが私に与えられた名前。
神様なんて、生まれてから一度も見たことないのに。
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