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セーラの魔法、それも薬草を操る力は強力で、誤って五歳年下のスカーレット叔母様に影響があってはならないと配慮し、連れて行ってもらえなかった、と続ける。
「あれは私が成人を迎えた年、ご同行をお願いしたのだけれど『私の可愛いスカーレット、貴方にはまだ早いわ』とけんもほろろだったわ」
実の妹を蚊帳の外にしてまで、セーラお母さんがアガサ様と密な関係だったことが伝わってくる。睦まじかった二人の間に一体何があったのか、挙句にはSalem《セイラム》の森を裏切った事実に、切り離せない存在が浮かび上がってくる。
「……一体、どんな人だったの……? セーラお母さんが〈外〉で出会った、その……私、の」
「ドロシー、貴方のお父様のことね」
静かな返答が私の胸を貫いた。
――父親。
恐ろしき〈外〉の人間であり、安寧を保っていたこの森に悲劇を招いた種の存在に、生まれてからずっとずっと触れられずにきた。
カタカタ、とまた肩が震え出すのを抑え、息を呑む。
「ドロシーのお父様とはセーラが初めて〈外〉に出た時に知り合ったらしいの……。それからは私が眠った後、アガサ様の目を盗むように〈外〉へ行き、いつしか結ばれた……私にもそれしか分からないの。これじゃ、何も分からないわよね、ごめんなさい」
萎れた花のようにスカーレット叔母様が頭を下げられ、慌てて「私こそごめんない」とその御身体を支えたその時、きらりと頭の奥で記憶の欠片が光った。それは少し前、誰かから聞いたような……。
(けっこんだ)
トトだ。ミルストウを一枝渡して発した言葉だったのを思い返す。
確か、ミルストウの下でキスした二人が結ばれる、と言わなかったかしら、年頃の娘達がこぞって探しに来た、とも。
(もしかしたら、セーラお母さんはHerb《薬草》を探しているうちに〈外〉に出てしまい、お父さんと出会ったのかも知れない。ミルストウの木の下で……)
ひらめきが闇夜の灯火のように私の懸念を照らす。
永久不滅の力を孕むミルストウならば、セーラお母さんと私の父親を結ばせることなど容易かったに違いない。
「ドロシー。ただ、分かっているのは」
黙り込む私を心配したのか、スカーレット叔母様が痩せた両手で私のを強く握り締める。
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