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「15年前、貴方を生んで亡くなっていったセーラは、確かにSalemに悪疫を齎す元凶と責められて仕方ないわ……。……けれど、セーラ姉さんは自由気ままではあったけれど、それでも他人を裏切るようなことはしなかった。昔から病弱な私を庇ってくれる優しい姉さんだったし、ましてやアガサ様にだなんて、むしろ」
「むしろ……?」
「アガサ様のことを誰よりも案じていたわ。〈外〉を畏れていたアガサ様を庇うように」
✽
クシャリ、と私を笑うように足元で枯草が潰れる。
(……やっぱり。二度と見つからない)
日没後、スカート叔母様がお休みになられたのを確認すると、私はこっそり小屋を抜け出しだ。リーサの崖は確実に冬に近付いていて、ミルストウが見つからないのはおろか他の樹々も精気を内側へと蓄え始めているのか、どのHerbも色を失くしている。
このSalemの〈中〉でミルストウを見つけられたのはたった一度きり、私が〈外〉に出そうになってしまったあの日だけ。
(きっと、セーラお母さんも花咲くリーサの崖に呼ばれ、不意打ちに結界を超えてしまったのかも知れない)
世界中で魔女が狩られる中、必死で妹を守りながら逃げ延びたのに、また〈外〉に出てしまったなんてどれ程怖かっただろう。
――〈外〉はとても怖いところ。
けれど、〈外〉と言って真っ先に思い浮かんだのはアスファルトと呼ばれる灰色の道、その先に佇む木造小屋とその屋根を守るように咲き誇るミルストウだった。樫の木に寄せるように根を伸ばし、空中で開花する輝きを想うだけで心が和む。
ミルストウのしろいひかり。
温かなひかり。
(必要になったらいつでも来ていい、って言ってくれた)
肩先にトトの温かさがまだ残っている。じんわりと火照る記憶が私を照らすと、広場で見た悪夢が吹き消えていく。
(行ってはいけない)
森の底が、アガサ様の影が忠告する。
それでも迷わなかった。私は踵を返すと、森の果て、〈境界〉の先へと駆け出した。
「今日は随分と暗い顔してるな、ドロシー。何かあったのか?」
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