37人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
小さな暖炉の前、ゆらゆらと火影がトトの横顔を照らす。狼みたいな大きな口を閉ざすと、じっと私を見つめた。オレンジ色が滲む瑠璃色の瞳から心配しているのが伝わってくる。
境界を越えた直後すぐにアスファルトの道が現れ、遠目にしろく咲き誇る花々を目にして安堵する私に、虫の知らせなのか、トトは小屋のドアに凭れかかって待っていた。
「夜にならないと会えないなんて、梟と蝙蝠、それとドロシーだけだな」
なんて犬歯を見せながら冗談を言うと、「火に当たれよ」といつも通り中へ案内してくれた。風が吹くたびにはめ殺しのガラス窓がガタガタと音を立て、すきま風が容赦なく吹き込み、一層厳しくなる冬の訪れを感じる。
「これ飲めよ、あったまるぞ」
すると、火にくべらていた鍋に木杓子で中身をすくうと、トトは湯気の立つボウルを差し出してきた。
スープだ。
「味は保証しねぇがな」
木のボウルを受け取ると、じんわりと掌に熱が沁みた。黄金色の液体には、普段私が西の丘で採るのと同じキノコ達が浮かんでいる。そおっと一口啜ると、
「美味しい……!」
「ははっ、そりゃ良かった。空腹が一番のスパイスだからな! 食いしん坊だなドロシーは」
「ちょっ……、ち、違うわ」
「いいっていいって、俺の前では畏まんなよ。ほら、どんどん喰えよ」
狼みたいな険のある顔をくしゃくしゃに綻ばせ、けしかけてくる姿はまるで悪戯好きの妖精みたい。胸の奥が仄明るくなってくると、
「――暗い顔しているのはそのせいか?」
急にトトは真顔に戻った。
紺碧の空を閉じ込めたような眼差しに射抜かれ、弛んでいた私の肩がカタン、と小さく鳴る。
(……セーラお母さんのことを知りたくて〈外〉に出て来てしまったけど、トトに会いに来て、私はどうするつもりだったんだろう……)
今更ながら困惑が頭を擡げてくる。
「訳あって俺に逢いに来たんだろ、ドロシー」
最初のコメントを投稿しよう!