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「森? Salemって、ここの村もSalemだけど……ああ、森の向こうの村ってことか?」
「いいえ、そうじゃなくて……。前にトトが入った、確か、トトの恩人であるライアンお爺様も迷われたって言っていた裏の森――そのずっとずっと奥の森から私はやって来たの」
「裏の森の奥? ってことは、ええと……実はあの中にドロシーが住んでいるってことか? 真逆一人で、ってことはないよな?」
「……私は、母の妹の、スカーレット叔母様と暮らしているの」
「ってことはドロシー達だけでか?」
ゆっくりと首を横に振る。
「へぇ、驚いた! あの中に集落があるってことか。ははは、まるで隠れ家みたいな村だな」
隠れ家、と明るくトトが喩えた言葉に、はっとする。
確かに私達魔女はティトゥバ様の、そして今はアガサ様の御護りの中に隠れて暮らしている。どうしてか自分達が、永遠に巣立ちをしない雛鳥みたいに感じられた。
巣の〈中〉の鳥。飛び立たずに〈中〉に籠る鳥。
――この違和感は何かしら……。
「しっかし、あんな森ん中でってどうやって暮らしてんだ? 俺みたいに樵夫……ってこと無ぇよな、ドロシーは。せいぜい花摘みかきのこ狩りぐらいしか出来なそうだもんな」
押し黙る私に構わず、美味しそうにきのこスープを飲みながらトトが続ける。
「……そうなの。私、Herb《薬草》を摘むのが、得意なの」
「へぇ、そうだったのか! あ、だからこいつが必要だったのか! この辺じゃ、若い娘どもが恋呪いかクリスマスの飾りぐらいにしか使わねぇけどな」
「……ミルストウの実には、不老不死の力が宿っているの。私の叔母様に必要で」
「成程な! へぇ、何だか薬草煎じてるとか聞くと不思議だな。……もしかしてドロシーって」
今度はトトが急に黙り込んだ。
私の頭から足先までをじっと見られ、胸の奥の震えがドクン、と大きく脈打つ。
トトのそばにいると、スカーレット叔母様とは違う安心感にゆっくりと包まれる。
けれど今、尖った顎に手を当てて凝視するトトの姿は獲物を前にした狼みたい。全身が固まる。
(――やっぱりトトでも言えない、魔女だなんて言えない……!)
次の瞬間、
「……ドロシーは魔法使いなのか?」
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