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「なんでまだできてないの?」
ダイニングテーブルで、じっと役者が揃うのを待つサラダボールは、夫にはヴィランにでも見えたのだろう。
怒りに満ちみちた目、そのままでこちらを見た。
「ご、ごめんなさい」
「帰る前に電話してるんだからさ、俺が帰ってきたときには、すぐ食べられるようにしておいてよ。
仕事もしてないんだからそれくらいしてよ。
ほんとお前は使えないよなぁ」
突然のことに私は口籠るように謝った。
夫は先日ダイエットをすると言い出し、ランチの量も減らし片道30分の自転車通勤を始めたのだ。
それまでは私が注意しても聞きもせず、夜中に冷蔵庫の残り物を食べ散らかしていたのだから、急な食事制限はさぞ大変なのだろう。
だからと言って、お腹が空いたイライラを、私にぶつけるのはお門違いと言うものだ。
少し落ち着きを取り戻し、どうしてそんな言い方をされないといけないのかと、そんな気持ちがふつふつと湧いてきた。
そもそも最近は、おかしな行動が目立つ。
今までは、外見には無頓着で、髪も私が言うまで切りもしなかった。それが、先日いそいそと美容室を予約し、髪まで染めてきた。
白髪も染めた方がいいのではと勧めていたので、身だしなみに気を使ってくれるようになったのは良いが、どうも違和感がある。
そんなことを考えながらも、雑穀とマンナン入りのご飯をよそいテーブルに並べた。
「お待たせしました。できましたよ」
夫は無言でテーブルに着くと、いただきますもなくにっくきヴィランに橋を突き立てた。
今夜は息子の受験について話をしたかったのだが、この空気の中で切り出す気にはならなかった。
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