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「ボク、あの家はイヤだよ」
「どうして!?」
飛行機が女の子の声におどろいたみたいに、止まってしまう。
「だって、泣いてばっかりなんだよ、あの家の人たちは。二人ともすごく悲しそうな顔をしてたから、行きたくないなって思ってたの」
ボクをふりかえった女の子は今度こそ泣いてるんじゃないかって思った。
涙が出ていないだけで、泣いているみたいだったんだ。
「だからなの」
「え?」
「だから、君にお願いしたいの」
「なにを?」
「君が、あの人たちを笑わせてほしいの」
どういうことなのか、さっぱりわからないままでいたら、飛行機はお家の前におりてしまう。
「このお家の人たちはね、本当は、すごく楽しそうに笑うのよ。とってもとっても悲しいことがあって、今は笑えないだけなの」
女の子につれられて、窓からお家の中をのぞく。
「ねえ、みて? お家の中は、とってもピカピカでしょ? あの、……、えっと、女の人は、お掃除もお料理も上手で、お歌もとくいなの。絵本だって読んでくれるのよ」
ほら、と指さしたほうには、たくさんの絵本がならんでいた。
「それにね、いいにおいがするの。あまいお菓子みたいなとってもいいにおい。女の人の腕のなかは、あたたかくて、抱っこされたら、うっとりしてすぐにねむくなっちゃうんだから」
「ふうん」
そんなステキな場所、あるわけがない。
ボクはまだ信じられないでいる。
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