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「ほら、あっちの……、男の人、とってもやさしいの。今だって、ほら、女の人においしいお茶をいれてあげてるでしょ? 二人はいつもなかよしなの。それに、男の人は力もちなのよ。飛行機みたいにたかいところまで、もちあげてくれたり。おひげジョリジョリは、ちょっといたいけど、いっしょにいるとすごく楽しいの」
うれしそうにお家の中をのぞく女の子は、ウソを言っているようには見えない。
じゃあ、どうして?
なんで、ボクに?
「ねえ、ここは、君の『とっておきの場所』なんでしょ?」
「そうよ」
「だったら、君が行けばいいじゃない」
「そうしたかったんだけど、あたしは生まれたてだから」
あ、と口を開いたまま、ボクは困ってしまった。
この女の子の背中には、よく見たら生えたばかりの小さな小さな羽がある。
最近、ここに来たばかりの子なんだ。
ボクの羽は、この間取れてしまった。
それがもうすぐの子の合図だからだ。
「そんな顔しないで? あたしも、いつかまたもうすぐの子になるんだから」
小さかったはずの羽は、少しずつ大きくなって、とつぜん取れてしまう日がくる。
それは、いつなのか、なん年先か、なん十年先なのかは、ボクたちにはわからない。
「あたしだって、もうすぐの子だったら、すぐにでもこの家の子になりたいのよ。でも、いつになるかわからないから、君にお願いしたいの」
「どうして、ボクだったの?」
「だってピンときちゃったんだもの。にてるなって思ったの。あたしのお気に入りのブランコで、泣いてた君が」
「ボクと君が?」
「そう、こうしてみたら顔もにてると思わない?」
ホラ、と窓にうつるボクらの顔をのぞいたら、本当によくにてる気がする。
「にてるかも」
「そうでしょ」
ふふふとうれしそうに笑った女の子とボクの口元には、同じところにエクボがあった。
くるくるした茶色い髪もにてる。
それに、あの女の人の髪の毛も茶色だ。
男の人が笑ったら、エクボができた。
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