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このクラブは瑞希の城だ。
己の弱さと無力さのせいで屈辱を受けた辛い過去から這い上がるために築き上げた、血と汗と涙の結晶と言っても過言ではない。
このクラブが完成した時、瑞希は二度と誰にも媚びないと誓った。
弱味を見せれば必ずそこに漬け込まれる。
どんなに綺麗事を言っても所詮この世は弱肉強食。
強ければ生き、弱ければ喰われる世界だ。
だからどんなに辛くても誰にも頼らないと決め、他人が入り込む隙を与えてはいけないと何度も自分に言い聞かせた。
瑞希がこのクラブでKINGとして君臨しゲストを従えているのは演出の一つでもあるが、本当は過去からくるトラウマ隠しでもある。
つまりこのクラブは瑞希にとって城でもあるが、瑞希自身でもあるのだ。
城を守るため、瑞希は今日まで努力を続けている。
そのおかげか、クラブFoli Douceはこれまで口コミのみで繁栄する事ができている。
一時は営業危機に陥ったものの、客足はすっかり戻り元の賑やかさを取り戻しつつあった。
だが先月から突然、退会希望者が現れ始めたのだ。
今月に入ってからは既に四名の退会届が出ている。
イベントが大盛況だったにもかかわらず、瑞希が難しい顔をしていたのはそれが理由だ。
歴史も人間も、栄える時代があれば衰退していく時代がある。
だからといって、何の対策もせずに諦めることなんてビジネスマンとしてあり得ないし、瑞希の美学にも反する事だ。
イベントが退屈だからか、はたまたゲスト同士で何かトラブルがあったのか…
信頼しているスタッフを集め、クラブ内でゲストたちの様子を伺ってみるものの、特に問題もないというのがますます瑞希を悩ませていた。
「はぁ…」
瑞希はため息を吐くと目頭を押さえた。
長い時間画面を見て考えこんでいたせいか、眼球の奥が悲鳴をあげている。
このままデスクに突っ伏して眠ってしまいたい気持ちになったが、瞼を閉じるとクラブの暗い末路が見えそうな気がして、瑞希は無理矢理目をこじ開けた。
このクラブを守るため、またこのクラブに来る事を楽しみにしているゲストたちのためにも、早めに何か手を打たなければならない。
誰もが興味を持つような、強烈で斬新でインパクトのあるイベントが必要だ。
その時…
コンコン、と扉をノックする音が部屋に響いた。
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