424人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
瑞希の胸騒ぎを他所に、イベントはどんどん進行していく。
羊は脱落し、残すところ兎とねこのみとなった。
兎は女性だが、ねこの方は男性だ。
といっても、ねこの方も華奢で小さい。
マスクで顔が隠れているとはいえ、その体型はサディストたちの加虐欲を十分に刺激している。
切なげに腰をくねらし、熱く息を吐くマゾヒストたち。
その二人の姿を新城は黙ったままじっと見ている。
その時、突然あたりが暗くなった。
ステージどころか会場中が真っ暗になってしまったため、ゲストたちが何事かとどよめく。
しかし、こんな演出の予定はない。
瑞希自身も全く何も見えず、一体何が起こったのか把握できずにいると、直ぐに暗闇の中から声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか?」
スタッフの一人が駆けつけてきたらしい。
「急にどうした」
「どうやら停電らしいです。直ぐに予備電源に切り替わるかと」
その言葉通り、会場は直ぐに元の明るさを取り戻した。
待ってました、とばかりにゲストたちの視線がステージに集まる。
ところが、そこには呆気ない結末があった。
兎の手に握られていたスカーフが床に落ちているのだ。
それはセーフワードの代わり、つまり兎の敗北を意味する。
予期せぬ事態に会場内はしばらくざわついていた。
瑞希自身も放心状態だ。
まさか停電中に勝負が決まってしまうとは思ってもいなかったからだ。
「あの一瞬の停電中に勝敗が決まったのか?」
「そうらしいです」
「くそ…っ、これじゃ誰も納得できないだろ」
瑞希は小さく舌打ちをした。
だが今更やり直しなんてできるはずがない。
それこそつまらない状況に拍車をかけてしまうだけだ。
なんとかこの歯切れの悪い状態を覆すような算段はないか。
瑞希はステージに立つ新城に縋るように視線を投げかけた。
最初のコメントを投稿しよう!