村川久夢さま「薫~書の道・愛の道~」

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村川久夢さま「薫~書の道・愛の道~」

 「書の道」を通じたヒロインの成長物語。  そのようにも言えますが、この作品はそれにとどまらないすべての人物たちの「成長物語」であり、群像劇であるとも言えます。  「書」の世界の奥深さ、面白さは冒頭で示されます。 「『一』という字はただ横に線を引くのとは違っている。始筆、筆速、終筆で字が違ってくる。書道を知らない人には同じに見えるかもしれないが、少しでも書道をかじったことがあれば、『一』だけでも字のうまさがわかる重要な文字だった」  このまっすぐな道。この作品を貫く一つの道であり、読者はそこに魅惑の世界を感じ取るに違いありません。  さて、母を思いやるあまり、母の期待に応えて生きてきたヒロインの薫は、就職活動に惨敗し、すっかり自信をなくしたところで、ある書道教室の入り口に掲げられた文字「群青」に強く心惹かれます。書道教室を営む佐伯に導かれるままに体験教室を経て、書の面白さに気づいた薫は、そのまま入会。周りは生徒とはいえ、師範資格も持っているような達人ばかりの中、薫はひたむきに練習に励み、どんどん腕を上げていきます。  ところで、この物語は、単なるサクセスストーリーではありません。  書の道に目覚めた薫の純粋な姿が、周りの人々や、そしてやがて恋に落ちる師範の佐伯をも覚醒させ、新しい道へと誘っていくのです。波乱万丈に読ませるストーリーの中にそういった過程が一本貫かれ、読者はそこに清々しさと温かさを見出していくことでしょう。そして、自分自身もそのような生き方を目指したい、という気持ちにさせられるのではないでしょうか。  もう一つ、薫を目の敵にする女性、貴子の描き方が印象的でした。裕福で容姿にも恵まれ、書の腕もすぐれた彼女はわがまま放題にふるまい、読者は初めは嫌悪感を抱くかもしれません。  しかし、作者は、そんな彼女にも、彼女なりの苦しみがあることを丁寧に描いていきます。苦しみののち、貴子自身も成長をかちとっていることを、読者は見てとることでしょう。  その他の人物たちも皆それぞれに個性的な魅力を放っています。これだけの人物を登場させ、そして一つの道に目覚めていく姿を描き切るのは、並大抵の力ではありません。  ぜひ、おすすめしたい一作です。 薫~書の道・愛の道~ https://estar.jp/novels/26015963
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