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井沢優希さん「だんしゃりのススメ」
どうしようもないダメ男(司郎)を「だんしゃり」する話なのに、どこか筆致は乳白色の光のような安定感を持ち、潔癖で、読者は自然と主人公・郁を応援していくでしょう。それは、一人称にもかかわらず、作者の井沢優希様が、いい意味で物語に距離をおきながらつづっているところにあるのではないかと思います。読者はそこに、前向きに生きようとする女性の清々しさを感じとることでしょう。
ネタバレになりますから、内容にはあまり踏み込みませんが、表紙の「三段階で捨てるのよ!」の言葉通り、物語は、「談」捨離─「断」捨離─ 「男」捨離、というように進んでいきます。
なかでも、なかなか「捨てる」決心のつかない主人公・郁に、親友の詩穂のかける言葉、「(司郎は)現状維持が一番、自分よりも稼いで家事もしてくれる女なんて、簡単にみつからないから離すわけないよ」は言いえて妙。
また、最終的に郁が、司郎の何気ない「すぐに捨てるのは、結構もったいない」の言葉で本音をつかむくだりは、さりげなさのうちに本質を描いていて、とても上手です。
また、井沢優希様の端正で安定した筆致自身もぜひ味わっていただきたいです。どういうシーンでも強度の変わらない文章……これは欠点にもなりえますが、この作家様の場合は、むしろ美点、いや独特の魅力を放っています。
もうひとつ、つけ加えさせていただくなら、北国の都市の雰囲気が随所に出てくるところも魅力のひとつだと感じました。郁は節目ごとに詩穂に居酒屋で相談しますが、「豚精(焼き鳥なのに豚)」や「ざんぎ(唐揚げ)」、「半身揚げ」。北海道に住んだことのない人間には興味津々でした。
ところで、司郎のダメ男ぶりは後日譚『ごめんなさいは届かない』でより明らかになります。お楽しみに。
『だんしゃりのススメ』
https://estar.jp/novels/25754047
『ごめんなさいは届かない』
https://estar.jp/novels/25794632
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