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阿坂 春さん「捨てるをめぐる私たち」
妄コン「私にしかできないこと」でみごと大賞をに輝いた阿坂 春さん。今回は、受賞作「捨てるをめぐる私たち」のレビューを書かせていただきます。
他にも何編か拝読したのですが、そこで受けた印象は、阿坂さんは独特のユーモアをもつ文体の作家さんだということです。面白おかしいというのではなく、上質な、にじみ出るようなユーモアがあるのです。
さて、「捨てるをめぐる私たち」ですが、主人公の樋渡宏輝は、子どものころにゴミ収集車に魅せられ、大人になってゴミ収集員となる夢をかなえた男です。しかし現実は大変な仕事。その中でいたってまじめな彼は、相棒の岡野の軽口に閉口しつつも仲良くゴミ収集作業を行っています。
最近、ある収集所である奥さんとその子どもの男の子がいつも収集のようすを見に来ています。何となく彼女が気にかかる宏輝。そんな彼女が「捨てたいのに捨てられない時はどうしたらいんでしょうか」とつぶやくように言うところから、二人の妄想は膨らんでいきます(もちろん読者の妄想も)。「捨てたいのに捨てられないもの」とは何か。浮気して殺した旦那の死体、子どものリク、はては彼女は幽霊でこの世への未練を捨てたいのではないか。岡野の軽口に怒りつつも、宏輝自身も疑念を捨てきれません。
この小説のうまいところは、初めに「旦那さんの死体だ」と思わせておいて、すぐに岡野にそれを語らせ、「じゃあ、違うのか」と読者を困惑させてしまうところです。そこから読者も一緒に「捨てられないもの」とは何なのかを考えざるをえなくなります。
ここで落ちを書くつもりはありません。ぜひ読んでみてください。そしてその落ちが、考えれば考えるほどじんわりと恐ろしくなってくることを味わってみてください。
エブリスタで約1年。さまざまの実績を残されている阿坂さまの真骨頂が見えてくるはずです。
「捨てるをめぐる私たち」
https://estar.jp/novels/25966981
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