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車の窓越しにありったけの弾丸を撃ち込んだ。それが若頭から命じられたことだ。標的を殺せたかどうかははっきりしない。わかっているのは同乗者が――チャイニーズマフィアのチンピラどもが、車を降りて陽平を追ってきたことだ。中国人たちの数は逃げれば逃げるほど増えた。奴らは通行人を巻き込むような場所でも躊躇なく撃ってきた。深夜二時過ぎの歌舞伎町を、陽平は転げるように逃げ回った。
駅前にはすでに弾除けにできるような雑踏はない。
路地から路地を縫うように抜けて、風俗ビルの裏階段を駆け上がり、隣のビルの屋上に飛び降りる。一息ついたと思った途端、すぐに非常階段を靴音が駆け上がってくる。
ドローンか何かで監視されているのでは、と思う。
考えても仕方がない。若頭から預かった銃には、もう弾丸は一発も残っていない。
ビル脇に連なっているネオン看板にとりつき、伝い降りる。銃声が響き、頬を熱いものがかすめる。
ネオン看板から手を離し、ビルの三階から飛び降りた。着地したのはゴミ山の上。多分、回収されることを意図していない不法廃棄物だ。
しばらくゴミの山に伏せてじっとしていた。
静かだ。
ネズミがいないのは、このゴミが毒を含んでいるからだろう。
中国語の喚き声は近づいてこない。
盛んに何か叫び交わしているが、路地の奥までは入ってこない。
陽平はじっと息を殺し、中国人どもが立ち去るのを待った。
右腕に痛みがある。
見ると、ゴミ山の中から注射器が突き出している。その針が、右前腕に刺さっているのだ。
腕から針を抜いて捨てた。刺さったままにはしておけなかった。
カラン、カラン。
注射器が、闇の中に音を立てながら落ちていく。
だしぬけにマグライトの照射を浴びた。
銃声。
――おまえをさがしていた――
耳元でかすかな女の声。
女の声?
陽平は振り返った。
ゴミ山の中に壺があった。
白い腕がそこから伸びてきて、陽平を掴んだ。
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