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久しぶりに連絡したのに容赦なくうんざり気味な声で愛想がない。まあ、お互い声を聞くとぱっと心が弾むというほどの仲でもないし。うんざりとまでいくほど険悪でもないだろとは思うけど。
「LINEは即送ってみたよ。翌日見たら既読ついてたから、普通に生きてるとは思う。でも返信がないんだ。みんな心配してる、お家の人に無事かどうかだけでも連絡入れてって伝えたけど。…まあそんなことは最初から百も承知なんだろうなぁ。自分の意志で失踪したんだとすれば」
一応自分でもアクションは起こした、と認定してもらえたみたいでほんの僅か越智の声色が和らいだ。丸投げする気かよ、そもそもお前の友達の話だろ。とまず感じたってことか。
LINE送ってみただけで他には指一本動かしてないから実態はまあそれに近い。それでも多少は努力したって評価してもらえるあたり、どれだけ普段自分からは動かない奴だと思われているのか。
『お前の呼びかけで返事がないなら誰が連絡入れてもまあ無駄じゃん?いやでも、考えようによっては。見栄張ってカッコ悪いとこ見せたくないみたいに突っぱねてる可能性もあるか。…まあなぁ、弱っちくてみっともないよなぁ。親の懐から大枚はたいて海外留学までさせといてもらって、上手くいかないとなると突然なんも言わずに失踪するとか。確かにそういう情けない部分は。好きな女には見せたくないかも…』
何言ってんだ。
「わたしと奥山くんはそういうんじゃないし。てか、こっちに相談しないのはそんな理由じゃないでしょ。ただ単に共感能力がないから話し甲斐ないと思われてるんじゃないかな。でも他の中学時代の友達ならさ。今の環境から遠いところにいる相手ほど、愚痴とかこぼしやすいんじゃない?と思って」
そう淡々と説明すると、奴は電話の向こうで小憎らしく笑った。
『自分に共感能力がないって自覚はちゃんとあるんだ。それだけでもだいぶましだな。まあだけど、言ってることはわかるよ。俺も大学の空手部の連中とか、高校の部活の仲間とか近い立場のやつにはなんか弱音吐きにくいとかはある。中学んときの友達に行くかどうかは別だけど。俺は地元、あえて出たくて出てきたクチだからなぁ…』
「もう繋がりゼロ?上京してきて全部人間関係すっぱり切っちゃった?」
それでも仕方ないか。と思って訊くと、越智は呆れた声を出してわたしの問いかけを遮って答えた。
『そんなわけあるか。地元でなんかやらかして東京に逃げてきたんでもないのに…。帰省したときは普通に友達と会うし普段もたまにLINEくらいするわ。お前みたいなコミュ障と一緒にすんなよ』
「別に障害ではないし。コミュニケーション取れないんじゃなくて取らないだけなんで。本人が苦しんでも困ってもなきゃそれは障害って言えなくないか」
すかさず言い返すと、越智はわざとらしくため息をついて電話の向こうで嘆息した。
『ああ言えばこう言うっていうか。お前って、ほんとに理屈だけは達者ってか普段ろくに喋らないくせに、やけに口だけ立つよな。小学校低学年の頃はこんなんじゃなかったのに。何言われても全然言い返せないもんだから風より早く手や足が飛んできて…、いや。そんなん懐かしくないか。矯正されてよかったな、言葉より先に問答無用で即手が出てくるあの悪癖』
「知らない。そんな昔のこと記憶ないから、こっちは」
全くもう。これだから、幼馴染みなんて本当に面倒くさい。自分でもろくに覚えてないこと今さら話題に持ち出してあれこれと。…まあ、実際のところ。保育園からこいつとはずっと一緒のはずだけど、正直わたしの方は幼い頃に越智がいたことすら記憶にない。こいつを個別認識したのは小学校中学年以降、もう少しあとのことだ。
だから過去に越智を殴ったのかって訊かれてもさあ?としか答えようがない。それより長じて空手では直接対決で散々勝ってるから(のちに成長して男子には敵わなくなる以前)、小さい頃の素手での喧嘩なんて。ものの数にも入らないって言っていいんじゃない?
「正直覚えてはないけど。怪我とかさせたことあるならそれは悪かったよ。で、それはそれとして。わたしに人脈と他人の顔の識別能力がないのは説明の必要ないでしょ。誰が奥山くんと仲良かったのか、今でも連絡取れる子はいるのかも全然調べようがないんだよ。あんたなら顔広いし、知り合いの伝手を辿れば何かわかりそうじゃん?手を煩わせて申し訳ないけど。他に頼る人がいないんだよ、わたし」
珍しくぶっちゃけて頼み込むと意外に満更でもないのか、微妙な声で唸るのが微かに聞こえてきた。
『なんか気持ち悪りぃな、しおらしくて。…まあ、別に。何人か心当たりにLINE送って確認取るくらいしかできないけど、それでいいなら。俺はもともと奥山とは同じグループに属したことないし。だから、仲良さそうな奴と関わりありそうなとこ探ってみる程度かな。最近あいつから連絡あったか、今連絡取れるやついるかくらいか、調べられるのは。…あんま期待すんなよ。別になんも出てこないかも』
あいつが中学以前の地元の連中と繋がり保つタイプかどうかによるからさ。見た感じ、自分の出身地にはあまり執着ないように見えるからなぁとぶつぶつ呟いてる。それはわからなくもないが。
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