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向かいの椅子に腰かけながらそう切り出すと久しぶりに会う越智は、曖昧な声を絞り出しながらどこか歯切れの悪い口調で答えた。
「うん。…えー、まず奥山の方の途中経過から先に言うと。あいつが中学んとき一番仲良かったやつらは二人とも今地元にいない。一人はアメリカ留学中で、もう一人は」
「九州だ。ごめん、そこまでは知ってる。奥山くんのお母さんが調べたの。でも二人とも卒業後全然連絡取ってないって言うから。他にちょっとでも親しい子いなかったのかなって。…割といつ見ても誰かしら友達と一緒だったから。二人だけってことはないだろって思って」
何だ、そこは調査済みかよ。とこぼす越智は一瞬だけちょっと普段の調子に戻った。
「わかってることは事前に言えよ。まあ、あんまり手間はかかってないから大した問題じゃないけど。…あいつの友達は割と進学率いいから、地元にそのまま残ってないやつもいるんだよな。うちの中学って2クラスあったじゃん。そのうち進学で地元離れてるのってほんの10人ちょっとだよ。俺とお前含めて」
「ふぇ。そんなもんか」
やっぱ田舎だ。そしたらわたしと越智と、奥山くんとその友達でもうそのうちの半分近いじゃん。
「就職とかフリーターになって仕事のために都会かどっかに出て行ったのが数人。半分近くは大学とか短大、専門学校に進んだけど県内かせいぜい隣の県がほとんどだな。頭脳じゃ俺より上のやつもいっぱいいたけど、親が仕送りできるゆとりあるかどうかとかも影響するし…。俺、改めて考えると恵まれてるな。ちょっと身が引き締まったわ」
「そんなこと言ったら。わたしの方がだよ」
越智は言っても空手で推薦だから。確か大学の方から奨学金も給付されてるはずだ。その点、わたしはといえば。マジで親丸抱えだから…。
「一番仲良かった二人以外も、奥山と親しいのは大体進学率いいよ。県内の大学に自宅から通ってるやつ何人かいる。俺の知り合い経由であいつと最近連絡とった?本人から何か聞いてないか、って尋ねてもらってるけど…。返事が来たやつの中で今でも連絡取り合ってるのはいないな。やっぱもしかして、結局お前が一番あいつと近しかったんじゃね?」
親しかった、と言わずにあえて近しいという表現を使った。その意図ははっきりとはわからないが。
確かに中学時代のわたしと彼の関係を考えると『親しい』って表現はなんか違う。クラスが違うせいもあって、一緒に行動するどころかほとんど顔を合わせて口を利く機会もなかったし。でも、『近しい』ってニュアンスならほんの少し。他の人たちよりはお互い近いのかなと思えて来なくもないから不思議だ。
「…まあだけど、人伝てに訊いてもらってるところもあるから。まだ返事戻ってきてないやつもいるし、ほんとに途中経過だな。数日経つけどまだお前のLINEに反応ないのか。奥山の親の方で何か新しくわかったこととかは?」
一応心配そうに尋ねてくる。わたしは冷たいグラスの表面に両手を添えて小さく首を横に振った。
「特に何も。…LINEは相変わらず律儀に既読がつくよ。でもそれだけ。読んでるのが本人かどうかわからないけど、少なくともスマホは生きてるみたいだね。位置情報は共有されないようにセッティングし直されてるみたい。『スマホを探す』みたいなやつ」
「そう考えるともしLINE読んでるのがちゃんと本人なら。やっぱり事故とか事件に巻き込まれたとかじゃなくて自分の意思で行方をくらませてるって考えた方がよさそうだな。わざわざ探し出されないよう気を配ってる感じがするし」
いかにもホイップ山盛りのラテとか頼みそうなイメージなのに、生意気にもホットのトールをブラックで手にしている越智が思案しながら呟いた。もっとも今日は平常より気持ちの余裕がない状態だから、深く考えてる場合じゃなくやっつけでとりあえず注文したことの表れなのかもしれない。
「他人が本人を偽装するためにLINE開いてるんなら、でっち上げの返信くらいできそうなもんだし。ただの物盗りとかがあいつのスマホ持ってるんなら既読つける意味ないしな。でも、これが奥山本人だと考えるとお前の送ったメッセージに目を通してる様子なのは少しはいい傾向なんじゃん?できるだけ気持ちを落ち着かせるように、なるべく追い詰めないで優しい言葉かけてやんなよ。…えーと、それはそれとして。今日急に呼び出したのは、実はちょっとお前に相談したいことがあって。だな」
決意を固めては来たんだろうけどやけに切り出しづらそうだ。一体何が飛び出てくるのかまるで予想がつかなくて、わたしは密かに内心で心構えを整えて次の台詞を待った。
「…お前さあ、最近。木村と連絡とか取り合ってる?」
「木村。…だりあ?」
ずいぶん久々に耳にする名前だ。今のわたしの環境だとあの子と共通の知り合いもいないしな。整った小造りな顔立ちから放たれる花のような明るい笑顔が脳裏に浮かんで、わたしはやや警戒気味に越智を見返した。
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