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日が沈み、雪の青さが際立つ夕暮れ、一人の青年がスコップやノミをソリに乗せ雪深い庭へ歩いていく。ギュコ、ギュコ、ギュコ。雪を踏みしめる足音とマフラーから漏れる白い息が空に吸い込まれていった。青年は黒ずくめの姿と不愛想な低い声のせいか町の者達から陰で『カラス』と呼ばれていた。本当の名前は別にあるのだが、青年は『カラス』と呼ばれる事は嫌いではなく、むしろ気に入り自ら名乗るようになった。カラスは人との関わりに嫌気をさし、町から離れた山奥に元々別荘として使われていた山荘を修理して暮らしていた。屋根を空色に塗り、木を植え、池と小さな畑を作りその周りをぐるりと垣根で囲んだ。まるで人を寄せ付けない『箱庭』のようだと、興味本位で見に来た町の人間がそう噂を巻き散らしているらしい。
ーー急がないとーー
カラスは庭に積もった雪を集め、大小様々なノミやショベルを使って器用に動物の雪像を作り始める。ザク、ザク、ザク。ジョウロで、時々雪像に水をかけ固まらせる。細かい表情は彫刻刀で彫っていく。図鑑と睨めっこしながら作り続けている内に雪像のバリエーションがどんどん増えた。
「あともう少し」
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