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「それは彼岸花っていう花だよ。でも毒があって危ないからあんまり近づいちゃダメ」 優しく腕を引っ張ってやんわりと彼岸花から遠ざけると、女の子は彼岸花と俺を交互に見て「毒があるの?」と叫んだ。 「こんなに綺麗なのに?」 「うん」 「そんなに危ない花を育てて大丈夫なの?爆発したりしない?」 この子には危険なものは爆発するという固定概念があるのか、突然飛躍した話に少し笑いながらも俺は「爆発はしないよ」と否定した。 「私こんなお花、他の場所で見た事ない」 「ああ確かに、彼岸花はお墓に咲いていることが多いもんな」 「なんでお墓なの?」 「昔は亡くなった人をそのまま土に埋めていたんだけど、それじゃあモグラとか猫に荒らされちゃうかもしれないだろ。だから昔の人達はそういう動物を遠ざけるためにお墓に彼岸花を植えたんだ。この花は、特に球根、つまり土に埋まっているところの毒が強いからもしお墓を掘り返そうとする動物がいても撃退することが出来る」 「へえー!昔の人ってすごいんだね。でも動物さん達がちょっと可哀想かも」 「まあ動物たちも馬鹿じゃないから、大体の動物は彼岸花が食べちゃいけないものだって分かるんじゃないかな」 「そっかー、それなら良かった!」 ニコッと元気に笑う少女を見て癒されていると「イオリ」と名前を呼ばれた。振り向くとラクともう一人、近所に住んでいる大野さんの奥さんが立っていた。 「美雪!こんなところにいたの?お母さん、勝手にどこか行ったらダメだって言ったよね?」 「ご、ごめんなさい」 大野さんの奥さんは俺の隣にいた少女を見つけると、眉尻を釣り上げ叱りつけた。 あ、この子どこかで見たことあると思ったら大野さんのところの娘さんだったのか。 言われてみれば、どこか二人の面影を感じる気もする。 こんな所で無駄話をしていないで早く親の元へ返してあげればよかった、と反省していると大野さんの奥さんと目が合った。 「うちの美雪がご迷惑をおかけしてすみませんでした」 申し訳なさそうに頭を下げる奥さんに俺は「いやいや」と慌てて頭を上げるよう懇願した。 「美雪ちゃん、すごく良い子でしたから気にしないでください。むしろこちらこそこんな所で娘さんを引き止めてしまって申し訳ないです」 「いえ、そんなことは⋯⋯」 二人して頭を下げ合い、危うく謝罪合戦になりかけたところでラクが間に入ってくれた。 「こいつは本当に何も考えてないだけですから気にすることないですよ」 随分と失礼な事を言われた気がするが、事実なので否定せずに頷いておくと、大野さんの奥さんは小さく笑った。 「じゃあまた今度、お話しような」 その隣で怒られて元気が無くなっている少女に話しかけると、彼女はそろそろと顔を上げた後、こくりと頷いた。 「それでは私たちは先に戻らせていただきますね。ほら美雪、おにいさんにありがとうございますは?」 「⋯⋯ありがとうございます」 すっかり気落ちしてしまっているその姿に苦笑しながら「こちらこそありがとう」と返し、二人が戻っていくのを見送った。
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