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ドレンチェリーの子
『この子 ドレンチェリーみたいだよねぇ。』
何処の誰が呟いたのか分からないコメント。
褒め言葉でないくらいは分かった。
ドレンチェリーってあれでしょ?ケーキとかクッキーに乗ってる、砂糖漬けのサクランボ。作ろうとするとめちゃくちゃ手がかかるんだってね。
・・・私が ドレンチェリー。
「ちょっと重いんだよね」
浩介との共同生活は、意外と呆気なく終わっていた。
重い
私の存在に向けた言葉なのか、私の愛情表現に向けた言葉なのかは分からない。分かるほど、私は利口ではないらしい。
なんとなくこうなることは予想していたけど、自分で自分をコントロールできない。ひび割れたスマホ画面と、知らないうちに増えたコスメが、物理的にそれを物語っていた。
「茉奈に似合うと思う」
浩介が初めて私の服を褒めたとき、私はすごく自信がついた。だからフリルスカートも、付け襟も、ネイルも・・・どんなに痛い女って言われてもどんどん身につけることができた。
好きな人の存在が、なりたかった私を演じさせてくれたのだ。
『いい年してキツい』
『一回鏡見たら?』
『そんなんだから男に捨てられるんだよ』
『消えてほしい』
気にならないはずだった言葉が、グサリグサリと音を立てて胸に押し付けられる。
嫌気が差してスマホを放り投げ、喪失したまま浴室へ向かった。
髪を解く
メイクを落とす
服を脱ぐ
鏡を見る
そこには、何処にでもいそうな女がいた。
なーんだ 案外普通じゃん。
大して可愛くもないけど、不細工でもない。衣装とメイクを落としてしまえば、なんの取り柄もない女優だ。
バカみたい
人の世情に口突っ込んで暇つぶししてる奴らも
自分が撒いた種に苦しんでいる自分も
そんな自分を未だに好きでいる自分も
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