ドレンチェリーの子

2/6
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
甘ったるくて面倒な(ドレンチェリー)。 私はもう、そういう目でしか見られなくなったのだろうか。 寂しい部屋で一人、着古したジェラピケとハーフパンツに着替える。ドレンチェリー感は全くない女を鏡越しに凝視するが、それが自分だと思いたくない部分もあった。 虚ろに倒れたスマホを取り上げると、いつもみたいに無料通話アプリを立ち上げる。浩介がいなくなってから、空白が多くなった夜を埋めるように、話し相手を探す日々が続いていた。 「誰でもいいから」 思考回路は幼稚で、ことごとく寂しかった。 誰に繋がるかは分からない。 酒の入ったノリで御託を並べる奴かもしれないし、性欲に飢えた奴かもしれない。それでも、ドレンチェリーだと揶揄する奴らよりはマシだと思ってしまう。そう願うように、通信音に耳を傾ける。 『もしもし』 振動がプツンと切れたと同時に、落ち着いた声が聞こえる。 画面の向こうの知らない誰か。 私のことを知らない誰か。 「・・・もしもし」 覇気のない声で応えるのがやっとだった。 『今 何してるの?』 「今・・・寝るところだよ。」 嘘をついた。 少なくとも、ドレンチェリーだって思われないように、語尾に清純さをのせてみる。 『そう。』 向こうは、ただそれだけ告げると、深みのある弦楽器を鳴らし始めた。 「・・・ギター 弾いてるの?」 『うん。』 「・・・結構 使ってる?」 『よく分かったね。』 「・・・別れた彼氏が弾いてたから。」 『そうなんだ。』 彼はそのまま、運指練習のような曲を弾き続けていた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!