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甘ったるくて面倒な女。
私はもう、そういう目でしか見られなくなったのだろうか。
寂しい部屋で一人、着古したジェラピケとハーフパンツに着替える。ドレンチェリー感は全くない女を鏡越しに凝視するが、それが自分だと思いたくない部分もあった。
虚ろに倒れたスマホを取り上げると、いつもみたいに無料通話アプリを立ち上げる。浩介がいなくなってから、空白が多くなった夜を埋めるように、話し相手を探す日々が続いていた。
「誰でもいいから」
思考回路は幼稚で、ことごとく寂しかった。
誰に繋がるかは分からない。
酒の入ったノリで御託を並べる奴かもしれないし、性欲に飢えた奴かもしれない。それでも、ドレンチェリーだと揶揄する奴らよりはマシだと思ってしまう。そう願うように、通信音に耳を傾ける。
『もしもし』
振動がプツンと切れたと同時に、落ち着いた声が聞こえる。
画面の向こうの知らない誰か。
私のことを知らない誰か。
「・・・もしもし」
覇気のない声で応えるのがやっとだった。
『今 何してるの?』
「今・・・寝るところだよ。」
嘘をついた。
少なくとも、ドレンチェリーだって思われないように、語尾に清純さをのせてみる。
『そう。』
向こうは、ただそれだけ告げると、深みのある弦楽器を鳴らし始めた。
「・・・ギター 弾いてるの?」
『うん。』
「・・・結構 使ってる?」
『よく分かったね。』
「・・・別れた彼氏が弾いてたから。」
『そうなんだ。』
彼はそのまま、運指練習のような曲を弾き続けていた。
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