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「・・・ありがとう・・・」
彼の言葉に、目の前がどんどん滲んでいく。ささくれていたこれまでの心が、どんどん洗い流されていくみたいに、止まらない。
「・・・ごめん・・・なんか・・・ごめん・・・本当に・・・」
『いいよ。そろそろ切ろうか?』
「・・・うん。」
『聴いてもらえてよかった。』
「・・・私も。」
『じゃあね。』
「うん・・・じゃあね・・・」
私の指とほぼ同じタイミングで、向こうの音はぷつりと終わった。
再び私は独りぼっちだ。
布団をぎゅっと引き寄せ、潜る。
柔らかい手触りの中には、ほのかに恋しい匂いが残っているみたいだ。
それもこれも、私という存在を嘲笑った神様からの、偶然なのだろうか。
忘れるわけがない。
簡単なリズムなのに耳に残るイントロも。
時々、隣の弦に指が引っかかる癖も。
最初こそ聞き取りづらいけど、馴れれば普通と変わらない低音の声も。
「・・・優しくしないでよ。」
子供みたいに泣く私は、まだドレンチェリー。
イタくて
哀れで
彼のことを もうちょっと忘れられない
寂しいドレンチェリーだ。
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