地の底から、飽くなき渇望を

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 しかし何故、生クリームのみ、良質な素材ではなかったのだろう。  これだけの良店であれば、細部に至るまで(こだわ)っていそうなものなのに。 「田舎だから流通経路が悪いのかな」  魔王はその疑問を、部下に投げ掛けてみた。 「いえ、あの村は酪農が盛んな牧草地にありますので、乳牛から新鮮で良質な生クリーム、というか生乳が()れるはずですが」  であれば、何故。  魔王が考えていると、部下が続けた。 「あ、でもそういえば以前にも遠征した際に、調子に乗ってあの辺りを焼け野原にしちゃいましたから、今はもう酪農できてないっぽいですね。牧草が茂ってないので牛が育たないみたいです」  ――なんてことを。 「あと最近日照りが強く、雨があまり降らないので、それで牧草の再生が遅れてるんでしょうね。なので粗悪な輸入品で代用してるんじゃないでしょうか。小麦や卵はかろうじて採れるようですが」  魔王は調子に乗った輩どもを一人残らず粛清してやりたかったが、たぶん自分も調子に乗った一員ではあったので黙るしかなかった。 「いや、であればさ、どうすればいいんだよ……」  魔王が(なげ)くと、部下は励ます。 「まぁ雨さえ降れば、そのうちまた牧草も茂りますよ。魔王様のお力で天候操作とかできないんですか?」 「いやそんな神様みたいなことできるわけないでしょ。魔王だよ、所詮(しょせん)……」  魔王は(ふさ)ぎ込んだ。  そして考える。  ――雨さえ降れば。  暫く考える。   雨……   降らす……   水を……   落とす……   水を……転送する……  そして帰結する。  ――勇者が、いた。 
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