地の底から、飽くなき渇望を

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 取り敢えず魔王は懐柔(かいじゅう)(こころ)みる。 「しかしお前に選択権など無い。お前を拷問にかけることも(いと)わぬのだぞ我等は。さっさと我々に平伏すがいい、勇者よ」 「ふざけるな。何があろうと俺は悪には屈しない。おのれ魔王め」  やはり自らの痛みでは屈しないタイプに見える。仕方がないので、魔王は強行手段に出ることにした。 「いいのか? お前が日照りに苦しみ貧困に喘ぐ貧しい村に雨を降らせなければ、我等は街を一つずつ焼くことにするぞ?」  魔王は街の人々を人質に取ることにした。  しかし言葉に出してみると、何を言っているのか魔王にもよくわからない。 「なんだと!? 俺が村を救わなければ、街を焼くというのか!? なんて卑怯なんだ! おのれ魔王め」  勇者も何を言っているのか、魔王にはわからない。  勇者は続ける。 「いやなんだ!? これは卑怯なのか!? 卑怯なのかこれ!? どうなんだ!? これは卑怯なのか!? どうなんだ魔王! なにがどうなっている!? おのれ魔王め」 「そうだ、残念だったな。お前はもう村を救うしかないのだ。お前が村を救わねば、街は火の海だ。街を救いたければ、村を救え、勇者よ」  勇者も混乱しているようだが、魔王も混乱している。 「くそぅ……卑怯者め。これではお前達の言うことを聞くしかないじゃないか! ビックリするほど意味がわからなくなってきたけど、おのれ魔王め」  なんだかいけそうな感じに思えてきたので、魔王はこのまま押し切ることにした。 「どうする、勇者よ? さぁ、さっさと我が手中に堕ちるがいい」 「くっそー! 俺にはどうすることもできない! 街を人質に取るだなんて、村を救うしかないじゃないか! 俺は村を救うしかないのか!? それが勇者の本懐な気はするから全然構わない気がすごいしているけど、俺は悪に屈するのか!? くそったれー!」  勇者は意外と早く魔王に屈した。
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