地の底から、飽くなき渇望を

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 * * * 「で、俺は転送魔法でその村の上空に水を少しずつ落として、雨みたいに降らせればいいんだな?」  一通り事情を説明すると、勇者は落ち着いた。 「うむ。この城の地下の井戸水を使ってくれ」 「お前達の言いなりになるのはシャクだが、仕方がない」  魔王は勇者を地下の井戸まで案内し、城内の部下総員で井戸水を汲み上げ、勇者の元へ運ぶ。  勇者は黙々と転送魔法を唱え始め、少しずつ、村へと雨を降らせた。  汲み上げられ、運ばれる(おけ)の水を、一杯毎に何度も何度も転送している。  それなりに魔力を消費するであろう転送魔法をほぼ丸一日使い続け、徐々に()せ細っていく姿を見ていると魔王は少し心配になったが、勇者が枯れ果てると同時に井戸の水も枯れ果てたので、明らかに止めるタイミングを見失っていたのだと反省した。 「うむ、これだけ降らせれば草も生い茂るだろう。よくやったぞ勇者よ」 「これで……街を焼かずに済むんだろうな?」  痩せ細った体から枯れた声を出している。  すぐに休ませてやろうと、魔王は思った。  しかし井戸が枯れるまで送る必要があったのか。  過ぎた行為に反省せざるを得ない。
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