地の底から、飽くなき渇望を

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 魔王は焦っていた。  沈着冷静さには定評のある魔王であったが、今度ばかりは焦らざるを得ない。  ――剣が、降ってきた。  正確に言えば、落ちてきた。  魔王が自室で静かに一人の時間を楽しんでいたら、突然、天井付近の空間が歪み、その歪みの中から先端を下にしたそれなりに重厚感ある両手剣が落ちてきたものだから、魔王は(たま)らない。  魔王は戦慄している。  たまたま魔王が漫画雑誌を本棚へ戻し終わったところで、ベッドから少し離れていたために事なきは得たが、あの剣はまず間違いなく魔王が一日の大半を過ごすベッドを狙って落ちてきた。現に、剣はベッドに深々と突き刺さっている。  ――誰かが自分の命を狙っている。  魔王はもう、焦らざるを得ないのだ。  魔王が落ちてきた剣を手に自室で慌てふためいていると、扉をノックする音が聞こえる。 「魔王様、おやつの準備が整いました、玉座の間へどうぞ」  魔王は一瞬、ほころぶ。  ――今日のおやつはなんだろう。  しかしそんなことは今は問題ではなかったため、すぐに我に返った。  剣が落ちてくる部屋にこれ以上居たくもない。取り敢えず魔王は(うなが)されるままに玉座へと向かうことにした。
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