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すくい上げたり掴んだり揉んだりしているうちに、次第に感覚が戻って来た。以前にはなかった手ごたえがあり、嬉しくなる。きっと明るい未来がここにたくさん詰まっているのだ! 南国の強い日差しをさんさんと浴びて輝くバレンシアオレンジが脳裏に浮かび上がった。
──いや、ちょっと待てよ。ということは……、私のおっぱいは日本人の平均より小さかったということか。
嬉しいのやら情けないのやら、この複雑な心情は整理するのに時間がかかったということは、申し添えておかなければならない。将来おっぱいレンタルを考えている人のために。
確かに前よりはサイズが大きくなり形もよくなった。にもかかわらず、きれいだとかセクシーだとかいう感想は持てなかった。他人行儀で気取って冷淡な感じがする。100人のおっぱい集め100で割った平均的おっぱい。
──営業所にいたあの平均的イケメンみたいだ。
クククと笑って、彼の顔を思い起こそうとした。だが、なかなかイメージが浮かばない。ちょっと驚きだった。そんなはずはない。数時間前に見た顔じゃないか。だが、思い起こそうと努力するほど、結びかけた映像が記憶の荒い網をすりぬけてゆく。なかなか具体像ができあがらない。おかしい。こんなはずでは、と脳天をコツコツ叩き、こめかみを指で強く揉み、脳みそを捩って思い出そうと努力する。何度も何度も試みる。だが、やっぱりダメだ。
──そうか、あまりにも平均的で没個性的な顔は記憶に留まらないんだ。とすると、私のおっぱいも……。
急に、お別れした私のおっぱいが恋しくなってきた。陥没乳頭で、左右の大きさが微妙に異なるコだったけど、見れば見るほど愛嬌があった。欠点ゆえのかわいさだったのかも。ときには生意気で、はすっぱな態度を取ることもあったけど、かわいいコだった。なによりも、20年ともに歩んできたという親友感覚があった。
まあ、もう預けてしまったものはどうにもならないのだけど。
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