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太陽のもとへ
──そんなことより、せっかくおっぱいサイズが大きくなったのだから……。
人間社会をもうちょっと巧みに攻めてみようかなという積極性が芽生えた。金銭的余裕ができたこともそれを後押ししてくれた。なんせ、私の銀行口座には毎月レンタル料が振り込まれてくるのだった。給料ほどではないが、お小遣いとしてはかなり余裕のある金額だ。欲しかった服だってバッグだって買える。小さな国内旅行なら、毎月だって可能だ。
一週間の夏休み。
夏子さんに湘南海岸に誘われた。女しか誘ってくれる人がいないというのが悲しかったけど、いいじゃないか。海岸に出れば小麦色の男たちがわんさかいるんだから。
平均的おっぱいを手に入れた私はもう男性視線による不当な差別の被害者ではない。保育園でだって、特に男の子には優しく接してきたではないか。陰徳(?)を積んできた私が不遇のまま終わることはないはずだ。お天道様は見ていらっしゃる。今こそリベンジのときだ! おっぱいで男を探すのだ!
やっほー! 初めてのビキニ!
カップ上辺から乳首までがほんの数センチ。屈んだり飛び跳ねたりしたらはみ出てしまうのではないかと思うと、どうも心もとない。悪い男に「どれどれ」なんて指を引っかけられ、ちょっとでもずらされようものなら、たちまち「こんにちは」をしてしまうではないか。
それでもいいや! 平均的、標準的おっぱいなんだから。日本中のはたちの女の子のスタンダードなんだから。はみ出たとしても平均的乳房。ポロリしたとしても平均的乳首。いいじゃないか、見られても。私が日本女性のスタンダード!
更衣室を思いっきり飛び出し、太陽の光あふれる砂浜に勢いよく走り出る生まれ変わった私。はずんでる、はずんでる! おっぱいがプルンプルンとはずんでいる。
「ちょっと待ってよ、ミア……」
呼び止められて振り向いた。
瞬殺だった。
夏子さんのビキニ姿の眩しさに射抜かれた。シリコンを流し込んでできた谷間に女である私でさえ眩暈を起こした。
周りの小麦色の男たちが、ゾワッと音を立て一斉に振り向いた気がした。
タイ旅行に行ったとき格安で買ってきたのだという。ブラの肩ひももショーツの腰ひももやけに頼りない。走ったりしたら豊満なおっぱいを支えきれず肩ひもが切れてしまいそうだ。ショーツだってプライベートゾーンがかろうじて隠れる程度の面積しかない。あの狭さじゃインナーも穿けないだろう。悪い男に指でヒョイとずらされたら、即「いらっしゃいませ」になる。
夏子さんの前では私はやはり付属品だった。でも、付属品であるおかげで私にもチャンスが回って来た。
初めてのラブホ。
「セックスは無料。場所は私の部屋かカレシの部屋」というケチな不文律はこの日、あっけなく崩れ去った。ほらほら。私の世界は今や刻々と変わって行くのだ。
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