太陽のもとへ

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 帰りの電車で、私はおっぱいレンタルに預けた乳房に思いをめぐらせた。今頃、どんな女に使われているのだろう。私のおっぱいは小さめだったが、査定でが高評価を受けAランクに登録された。毎月振り込まれる金額を見れば、かなり裕福な生活をしている女性であることは推測できる。どんな男に揉まれているのだろう。どんなふうに吸われているのだろう。男は私の乳房を気に入ってくれただろうか。愛してくれているだろうか。  ちっちゃな、ちっちゃな双子。心細くて夜な夜な泣いているのだったらどうしよう。男にいじられるのが痛くて私を呼んでいるのではないだろうか。  幼い頃、あの貧しいアパートで夜になっても帰って来ない母を待ちながら、ひもじさをこらえていた孤独と不安がよみがえる。暗く長いトンネルはどこまでも、どこまでも際限なく続くように思われた。孤独と不安と恐怖もいつまでも、いつまでも続くように感じられた。  ──大丈夫よ──私は自分に言い聞かせる。──おっぱいは一人じゃない。双子なんだからお互いに励まし合って逞しく生きているはずよ。  バッグからフェイスタオルを引っ張り出し涙を拭いていると、夏子さんの柔らかな瞳に覗き込まれた。 「痛むの? アソコが?」  確かに初めて男の肉棒を突っ込まれた菊門も疼痛でジンジンと痺れていた。だが私の涙は自分の痛みよりも、可哀想な双子を思っての涙だ。 「夏子さんは自分のおっぱいに会いたくならないんですか」  乗客に聞こえないように囁くと、彼女は私の頭を撫でてくれた。 「私のおっぱいね、すっごーく我儘で甘えん坊なの。ブラなんて大嫌いだし、カレシとキスしていると、すぐに揉んで揉んでって出しゃばって来るの。で、カレシが揉んでくれるじゃない? そしたら、乳首を真っ赤に充血させちゃってさあ、噛んで噛んでって催促するのよ。クンニされているときも、クリ以上に疼いちゃうんだから……」  電車の中で話すような内容ではなかった。夏子さんの声が大きいから、聞こえている人もいるかもしれない。話を聞きながら周りの乗客の様子をこっそりうかがう。 「だから、この子たちにはちょっと苦労させないといけないなと思って。世間で揉まれて来れば少しは礼儀をわきまえるようになるでしょう。このままだと統制不可能なおっぱいになっちゃうから。もちろん会いたいわ。でも契約上それは不可能だし……。あと1年半経ったら、元気で帰って来るわよ。それを楽しみに待っているの」  そうか……。普通の女の子はそう考えるのか。我儘なおっぱいの社会訓練。ペットの犬にトイレを覚えさせるようなものか……。見習わなちゃ。 「私、我慢できるかなあ。だって、私の双子、とてもつらい思いをしているんじゃないかなって思って……。ほら、私って親からネグレクトされてきたから、あの子たちも虐められたり、夜一人ぼっちにされているんじゃないかと思うと、可哀想で可哀想で……」  私はバッグから慌ててハンカチを出して目に当てた。
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