夏子さんのおっぱい

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 六畳くらいの居室で小さなローテーブルをはさんで向かい合っている私たち。 小さなスピーカーからは軽快なKポップ。毛脚の長いラグマットでお尻が暖かい。 部屋を見渡してみると、何気に高価な家具や化粧品が置いてあり、高そうな服がハンガーにかかっていたりした。さすが査定A+のおっぱいのオーナーだ。毎月どのくらいのレンタル料が入って来たのだろう。 「また、レンタルに出すんですか?」 「さあ、どうかなあ……。やっぱり自分のおっぱいが一番いいと思うし」  礼儀を知らない私は、夏子さんの腕によりをかけた料理をいただきながら、ずっと胸ばかりを見つめていた。  まんまる先生が言っていた「しあわせ」の4文字がほんわり脳裏に浮かび上がった。この堂々とした膨らみがあったら、私の数々の欠落を補って余りある。しあわせのために持つべきものはやはり大きなおっぱいだじゃないだろうか。 「しあわせ」はまん丸。おっぱいもまん丸。 「もう、美彩ったら……」  夏子さんがからだをよじって恥じらう姿が、今日は特にかわいい。 「ごめんなさい。とても立派できれいなもんだからつい……」  それでも私の視線は胸を離れようとしない。まるで眼が意思を持ったように(かたく)なだった。 「私、結婚するの」  唐突に言われた。  ──結婚? 結婚って?  しばらく意味が理解できなかった。母への良くない思い出が「結婚」さえ目に見えない遠いところに押しやってしまっていたから。 「先々月お見合いをした人なの。ちょっと年いってるけど、幅広くゲストハウス経営している人だし、いいかなって」  そうか。二人で暮らすのか。家庭をつくるのか。そうか、そうか、その結婚か……。咀嚼していたものをようやく飲み込んだ私は、ふつうの女の子にとって結婚は夢なのだということを思い出した。 「夏子先輩、やりましたね! おめでとうございます!」  顔に思いっきり笑顔を広げたつもりだったが、心はついていってない。結婚が、妻になり母親になることが、めでたいことだと思えないから。   「結婚したら、韓国に住むのよ」 「か、韓国? 韓国の方なんですか、お相手さん?」  元Kポップアイドルとか……。おっぱいの実力でイケメン獲得? 「ふふふ……。日本人よ。むこうでゲストハウス事業展開してるの。将来は韓国でもおっぱいレンタル事業やろうかなって言ってる。美彩もカレシできたら一緒においでよ。安く泊めてあげるから」 「行く、行く。絶対行きます!」
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