同棲

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 予言は当たった。──と言うより、「おうち」を探し当てたのは私ななくて彼の方かも。だってその日から彼は私のワンルームに入りびたりになり、同棲生活は3週間目だ。彼が転がり込んでくれたおかげで、「明るく暖かいおうち」という部分は当たった。 「帰らなくてご両親は心配しないの?」と訊くと、 「うん、シューマイのお礼だから」と、訳のわからないことを言って、ベランダの洗濯物をヒョイヒョイと取り込んでくれる。日当たりがいいことだけが取り柄の狭い狭いワンルーム。  優しさと思いやりが彼の基本路線だ。優しくされると嬉しいのが普通だと思う。でも、私は悲しくなる。彼の優しさの奥深いところに悲しみがあって、それが私の胸の奥にあるものと共鳴してしまうという、そんな感じなのだ。私にはわかる。彼の優しさは、かつてとてつもなく大きな悲しみか孤独のなかで震えたことがある人の優しさなのだ。  ──彼の生い立ちか、それとも前の会社で何か辛いことがあったのかな?  どんな悲しみがあったのだろうか。どんな孤独に悩まされたのだろうか。それをお互いに打ち明けることができるようになるには、まだまだ多くのものを分かち合い、多くのことを乗り越えていかなければならないのだろうけど。  保育園からは別々の帰路を取る。私は最短距離。武田くんは一旦駅に抜けて商店街を大きく回って帰って来る。辿り着くところは同じなのに。それは保育園に対する配慮だ。私たちが同棲していることはまだ誰も知らない。  どちらか早番の方が、あるいは先に帰ってきた方が夕飯の準備をするというのが一応のルールだ。私はそれはととらえているが、彼はだと言っている。 「だって、美彩ちゃんの好きなものを想像して料理できるなんてしあわせだろ?」  と、何気ない顔でスパゲティーを二人分茹でている。泣かせるようなことを言うものだ。プライベート空間になるとたちまち「ちゃん」付けになるところも嬉しい。とっても満ち足りた気持ちになって、私は枕を胸に抱いたまま、ゴロンと布団に寝転がる。
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