同棲

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 このとろけるようなしあわせがいつまで続くのだろう。義務より権利の方が多くなれば、この生活も長生きできるように思う。しかし、幼い頃トラウマを負った私は絶えず不安にさいなまれる。母親のように、出て行ったきり真夜中になっても戻って来ないなんてことが、いつか起こるのではないだろうかと。ひもじさと不安と怖さの中でしくしく泣くはめになるのではないかと。息子を取られたと、彼のお母さんが押しかけて来るんじゃないかと、不安で不安でしょうがないのだ。だから、 「たまには家に帰りなよ」  と、冷たく突き放してしまう。心の中では、帰らないで、と念じながら。こめかみが痛くなるくらい強く強く念じながら。  それは新たな不幸を呼びこまないようにする自分なりの自衛本能であり、同時に、自分がこんなしあわせであっていいはずがないという諦念のためでもあった。 「帰りたくてもね、僕の家はとても遠いところにあるんだ」と、エプロン姿の彼は流し台の水垢をスポンジで擦っている。 「遠いところって?」と、早くもパジャマ姿の私。  尋ねるまでもなく、私は彼の答えを知っている。ウルトラマンと同じM78星雲。彼のすばらしい空想力のたった一つの欠点はいること。 「真面目な話、コートとかセーターとか持ってきておいた方がいいんじゃない?」 「もう僕の家はないんだ。マンスリー契約だったから」  だから、追い出さないでくれと菜箸を手にしたまま、両手を合わせるのだった。  いやいや、私の方こそ、帰らないで、ずっとここにいて、と頭を下げて意思表示したいのに。  私をじっと見つめてくれる竹田くんは、いつ見てもイケメンだ。来るぞ来るぞという期待感にあおられるからそう見えるのかもしれないが。 「ふむんん……」  見つめられるのはキスの合図。布団に転がり込むと、たちまち激しく燃え上がる。  イエスかノーかはっきりしろと夏子さんにも言われて来た。竹田くんのキスはいつでもイエスだ。だって、切れ長の目でじっと見つめられて、「かわいい」なんてささやかれたら断れる女子はいないだろう。  私の方からも意思表示をする。彼の顔を強く抱き、離れかけたくちびるをつなぎとめる。そして私の方から激しく吸い、舌を入れる。愛のシーンでは意思表示がたやすい。社会性は極端に低くても、性欲が強い証拠だ。
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