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立っていられなくなり、膝を折ってしまう。すると竹田くんも布団の上に腰を下ろす。
布団の上に座って向き合う。暖かい手のひらに頬をなでられる。ふたりの間の空間がもったいない。もどかしくて、じれったくて、ふたりでからだをよじると、いつのまにか私のお尻が彼の胡坐の中におさまっていた。
「これね……、対面座位っていうんだ。知ってた?」
「知らなかった……」
嘘だ。よく知っている。かつてこの体位でオトコに突き上げられたことがある。その時の痛みと屈辱を思い出したくなかった。せめて嘘をついて、なかったことにしたかった。
両脚を開いて彼の腰に回すことになるからちょっと恥ずかしい。でも、恥ずかしいだけだ。恐くない。だって、竹田くんは勃起したものはあんなに太くて立派だけど、それで乱暴に突き上げることは絶対にしない人だから。
長身の彼にチビの私。この姿勢で彼に抱かれていると小さな子供に帰ったような気がする。なんという安心感。
──竹田くんに抱っこされた園児ってこんなに気持ちよかったんだ。
ちょっとだけ嫉妬した。
私はうっとりとなって、たくましい胸に頬を預ける。呼吸がとても滑らかだ。いつも縮こまって周りをうかがい、期待にこたえようと緊張していた私もこんなに健やかな呼吸ができるのか。竹田くんの体温を胸に感じながら私は全身の力を抜く。守られていると感じる。裸が恥ずかしくない。肌と肌が擦れ合うのが気持ちいい。
──しあわせって何だと思う?
まんまる先生の声がした。
知ってる。今、私にはしあわせがわかる。ほら、ここにある!
私は竹田くんの胸に耳を当てる。
とく、とく、とく。
心臓の鼓動が聞こえる。私を愛してくれる人の鼓動。この鼓動のおかげで私も生きているんだなと思うと胸が熱くなり、また涙が溢れだす。
「悲しいの?」
竹田くんの長い指にそっと顎をつままれた。ひとつだけ小さなキスが落とされた。
「しあわせ……か、も……」
「うん、キミをしあわせにしたい。キミがいつもいつもしあわせなら、僕もとても嬉しい……」
見上げると竹田くんも泣いている。
「僕も、今、やっと探し当てたよ」
「私、を……?」
「そう。キミと、それから……」
「それから……?」
「……母さんを」
「お母様を……?」
小学校の図書館で読んだ本に、少年が船に乗って遠い外国にいる母を探しに行く物語があった。その少年が竹田くんだったのかな?
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