しあわせ、みつけた。

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 竹田くんの手が私の後頭部に回される。それは高価な骨董品を扱うような慎重さと愛情が込められていた。首の座らない赤ん坊を寝かすように、私を布団の上に横たえた。 「で、電気を……」 「え?」 「竹田くんに抱かれているとすごく気持ちいいから、私……、ブス顔になると思う。だから……」 「そうか……、気がつかなくてごめん」  部屋が暗くなった。向かいのビラから漏れる光でブルーのカーテンがスクリーンのようにぼんやりと光を発している。  なんて優しいんだろう。男の人は快感でブスになった女の顔とかヌラヌラの性器を見ながら興奮するという。それをすべて放棄して私の願いを受け入れてくれるのだから。  彼の「甘え」は優しい。右手でくちびると耳とうなじに指を這わせてくると同時に、頬を乳房にそっと寄り添わす。あたかも子供に添い寝するように。赤ちゃんのほっぺたに落とすような優しいキス。左手でももう一方の乳房をサワサワと撫であげる。  ──おかあさん、なんでぼくをすてたの? なんでむかえにきてくれないの?  満たされない幼児の声が聞こえてくるようだった。  可愛そうで、私は絶えず彼の頭を撫でてあげていた。私がお母さんに撫でられたかったように、優しくなでてあげた。  彼が私を見下ろしている。薄暗がりの中でも彼が上気しているのがわかる。私も半開きのくちびるで熱い呼吸を繰り返しながら彼の整った顔を見上げる。そして──うなずき合う。それは、ふたりの気持ちが完全共鳴した瞬間だった。  竹田くんのたくましいものがゆっくり、ゆっくり入って来る。こんなにスムーズに入るなんて意外だった。リラックスしているからだ。潤っているからだ。 「痛くない?」 「大丈夫……」  どこまでいたわってくれるのだろうか。こんなこと訊かれたことは一度としてなかった。過去のどのオトコも私がよがろうが痛がろうが、お構いなしにめくら滅法突いてきたものだ。
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