しあわせ、みつけた。

5/6

45人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
 不思議なことが一つ。  彼が入ってくる直前に膣口が自ら門を開けた感覚があった。彼の亀頭が喰い込んできたとき、襞の一枚一枚がほどけ、自ら亀頭を導き入れるような感覚があった。  心の底から共感する男の人を迎える時、女のからだは意思とは関係なく和らぎ、精いっぱいのもてなしをするものなのだろうか。 「ふあーっ!」  来る、来る。入って来る。奥に進むにしたがって、私の肢体は少しずつ弓なりになってゆく。弓なりの度合いで挿入の深さがわかるように。 「くぅっ! ……っ、……っ、……っ、……っ」  亀頭が子宮の直前まで来ると、1ミリ進むごとに、体中の筋肉が断続的に痙攣し、快感がジワジワと総身に広がってゆく。 「ほら……、やっと、一つになったよ僕たち」 「竹田くん……、ずっと我慢させてごめ……」 「……また泣く……」  彼の長い指がこぼれ落ちた涙をすくってくれる。  完全挿入の状態で私たちは固く抱き合った。私と竹田くんは完全に一体となっている。その満足感と快感で恍惚となる。頭が真っ白になり何も考えられない。考える必要もない。喘ぎ声もブス顔もからだの痙攣もすべてをさらけ出す。隠す必要などない。だってこの人は竹田くんだから。私のことが大好きな竹田くんだから。私も大好き。竹田くんが大好き。  今、私は完全に満たされている。完全なるまん丸。  ──しあわせです。これが私のしあわせです。まんまる先生。私、しあわせを見つけました……。  彼の抜き差しは、満たされなかった灰色の日々を虹色に塗り替える作業にほかならなかった。膣襞の一枚一枚の形状を確かめ、その一枚一枚に丁寧に色を塗りこめてゆくのだった。愛に染まりあがった襞の数だけ喘ぎ声が上がる。 「っんー、っんー、っんー、っんー、っんー……」  私の喘ぎ声の数だけ、彼の過去は塗り替えられてゆく。同時に私の過去も……。  縮まっていた襞が彼の剛直により限界まで広げられる。こんなに広げられたことはいままでにない。いや、膣襞はもう裂けているのかもしれない。裂け目から快感の新芽が芽吹き、どんどん成長し根と葉を広げてゆく。そのスリリングな快感は言葉では表現できないものだった。  小さく、イった。  竹田くんと初めてイった。  線香花火が飛び散ったような小さな快感だった。意識が一瞬白くなりかけたが、失神するほどのものではない。快感のコンパクトさがとてもよかった。  私が今まで知っていたオルガズムはオトコのエゴで無理やりイかされるものだった。ダラダラと体液を垂れ流しながら失神するオルガズムだった。そこには人間の尊厳を捨て切ったような浅ましさがあった。でも、竹田くんとのセックスは違う。慰めて慰められて、受け入れて受け入れられて、赦して赦される、人間と人間の精神的な営みにほかならない。竹田くんとなら、セックスのたびに精神的に成長できるかもしれない。  ほら、また来た。 「はあっ……、っんー、っんー、っんー」  小さな波でざざざざーっと浜辺に寄せられ、またすうーっと沖に押し戻される。ゆらゆら、ゆらゆら。快感に弄ばれ私の身体はどこへ流されていくのだろう。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加