フ・ク・シュ・ウ

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「さあ、美彩のお尻、見せてね」  夏子さんはショーツのウエストに手をかけた。そのとき、私の心の奥底に眠っていた真っ黒い恐怖心が目を覚ました。 「ダメ! それだけは、ダメ! やめてください!」  私は必死に足をばたつかせた。脱がされないように腰を振った。それでも夏子さんの手は離れない。ちょっとでも油断をしたらたちまちお尻が剥かれてしまう。私は必死に腰を振る。 「夏子さん、それだけは……。それだけは、やめてください……」 「いいじゃないの。私たちお互いのオマンコ、知ってるのよ。お尻もみたいわ。見せてよ。美彩の丸いお尻見るの楽しみにしてたんだから」 「きゃっ!」  ウエストが5センチほど降ろされた時、私はパニックに陥った。この場で舌を切って死んでしまおうと思った。お尻を見られることになぜそんなに恐怖を感じるのか自分でも自分がわからない。でも、それは見られてはいけないものだった。記憶の深い泥沼から決して現実に湧き上がって来てはいけないものだった。 「わかった、わかったから、美彩ちゃん、わかったから」  髪の毛を振り乱して涙を流す私を夏子さんは胸に抱きしめてくれ、何度も何度も謝ってくれた。  私は彼女の暖かい胸の中でだんだん気持ちが落ち着いてきた。地底から湧き上がって来たどす黒い記憶は、輪郭を成す直前で霧散し、形も影もなくなった。 「えー、当社の社員は全員が日本人です。ですから韓国人テレポーターの養成においては間接的にしかお手伝いできません。」  大好きな竹田くんの声が聞こえてくる。大好きな夏子さんに抱かれ、いい子いい子されている。ああ、私に「過去」さえなければどんなにしあわせなことだろう。でも、私には幼少期のトラウマが……。 「しかし、当社はテレポートに関する膨大な研究資料と実験データを所有しております。優秀なテレポーターに経験豊かなテレポートトレーナーも有しております。韓国での事業展開に是非とも協力させていただければと思います」  園児におしっこを引っかけられ、添い寝中に園児に顔を蹴られ鼻血を吹き出していた竹田くんを思い出した。使えない保育士だと思っていた時もあった。「大卒のくせに」と馬鹿にしていたこともあった。そんな彼は今、壁を一枚隔てたところで、辣腕のビジネスマンを相手に理論を展開し、熱く語り、説得している。彼は復活しようとしているのだ。本来の自分に帰ろうとしているのだ。ああ、私も……。私もすべてのトラウマから解放され、本当に自分の姿に帰りたい。 「おっ、もうこんな時間か!」田中社長の声だ。「今日はさぞかしお疲れでしょう。ゲストハウスをまるまる一部屋空けておいたので、今日はそこでお休みください」 「ありがとうございます」 「明日はチェジュドですね。私は同行できませんが、思い出に残る旅行になりますようお祈りいたします。じゃ、私はこれで……」
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