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竹田くんが説明する間、夏子さんはじっと耳を傾けていた。ただ、内容が内容だから、涙もし、笑いもし、顔を真っ赤に染めたりもした。
「……ということなんです。よくもまあ変態じみたことを考えるものだと、お笑いになるかもしれません。でも、これ、僕と美彩が真面目に、真剣に考えたことなんです」
竹田くんは誠心誠意説明した。私も一言言わなくては……。
「私も竹田くんも親がいないし、親戚もいないんです。孤独な夫婦なんです。応援してくれる人もいないんです。考えてみれば、私が親にネグレクトされてきたのも、竹田くんが捨てられたのも、親が孤独だったからだと思うんです。周りにたとえ一人でも親身になって相談に乗り応援してくれる人がいたら、そのようなことは起こらなかったんじゃないかって……」
私はまた泣きそうになって声を詰まらせた。
「僕たち、とても深く愛し合っているんです。どんな危機も乗り越えて行けるって自信があります。でも、時が過ぎれば、いつか愛が冷める時もあるかもしれないじゃないですか。それが今の僕らにとって一番怖いんです。親と同じ過ちを犯すんじゃないかって。そんな時、私たちに思い出させてほしいんです。あなたたちこんなに愛し合っていたのよって。そして子供が大きくなったら、おまえを生むためにお父さんお母さんがどれだけ強く愛し合ったのか知ってるかって、伝えてほしいんです。だから……」
「あなたたちが、是非、というなら反対しないわ。だって、『女神』とまで言われたんですもん。でも、それってあなたたちの特異な……何ていうかなあ……、特異な……性癖? から来ているんじゃないでしょうね」
「性癖……も、あるかもしれません」
竹田くんは苦笑した。私も顔がほてって来る。
「でも、なんていうか……。僕……、それって人間なら誰しも持っている本能じゃないかなって思ってもいるんです。愛し合う姿を認めてほしいという承認欲求みたいなもの……」
「私、怖いんです。こんなに竹田くんのことが好きってことが。だから、私たちが愛し合う姿を見て『それでいいんだよ』って言ってくれる人、励ましてくれる人が欲しいんです」
「僕も本当は怖いんです。こんなに美彩のことが好きでいいのかなって不安なんです。そんな不安を抱えたままセックスして子供ができたら、あまりいい家庭ができないような気がするんです。だから……見ていてくださいませんか? 僕らのセックスを認めてくださいませんか? そして記憶してほしいんです!」
竹田くんの熱弁に、私は全身が疼いた。私も言いたいことを言った。自分の思っていること、やりたいことを言える自分になっている。
──私、知らないうちに生まれ変わっている……。もう迷子じゃないんだ。
「わかったわ! 私に任せなさい!」
夏子さんは拳でドンと胸を叩いた。
「あなたたちが子供をつくる場面、私が見守ってあげる。あなたたちの愛の証人になってあげる。子供ができる瞬間の証人になってあげる。だから、最高に美しいセックスを見せてよね。ちょっとでも不満があったら『却下!』だからね。また最初から、服を脱がすところからやり直させるんだから! 『おっぱいの女神』は厳しいのよ! わかったわね⁈」
「はい、よろしくお願いします!」
わたしと竹田くんは声を合わせて頭を下げた。
「そして、それはね……」
夏子さんは言いかけて私の目をじっと見た。
わたしは彼女の目の色で理解した。それが二重の意味の儀式であることを。
私と竹田くんの愛の儀式であると同時に、私と夏子さんのレズの関係に終止符が打たれる儀式。
──それでいいんだ。だってフクシュウは終わったんだから……。
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