儀式

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 こんな暗い目をした子を初めて見た。  教えれば素直に吸収するし、大変そうなとき脇からサポートしてやれば「ありがとうございます」と、まだ社会人としてぎこちないが明るい声が返ってくる。しかし、一人でプレイルームの片付けをしている時や、手が空いて一人でぼうっとしている時の彼女を覗くと、ひどく暗い目をしている。この子は何かを呪っている。誰かを恨んでいると直感した。 「彼女、なんか内に籠りがちだし、園児にはよく目は届いていると思うんですが、保護者に対して、怯えているというか、壁を作りすぎというか……ちょっと暗いんですよね……」  園児に問題が起こったり、保護者からクレームが来てからでは遅いと思い、さり気なく園長先生に相談した。 「新人さんは皆、何かしらの短所があるものよ」まだそんな年でもない園長先生は、お祖母ちゃんが孫に昔話でもするような柔和さで言った。「でも、片岡さんって、キラッと輝くものを持ってると思わない? 私ね、それを育てたくて彼女を選んだの」 「はあ……。育てたかったんですか? 園長先生がですか?」 「ええ、そうよ。何かをもった若い子から本来のを引き出すことが私の趣味なの。園児を育てるようにね。ふふふ……」  暗い子だという思い込みがしばらく私と美彩の壁になっていたと思う。だがその壁はひと月もすると跡形もなく崩れ去った。園長先生の言ってたとおり、彼女の「輝き」を私は見たのだ。それは特別な才能というのではない。美彩には一般的な意味で才能と呼べるものは、残念ながら、ない、と思う。あるのは愛情に対する飢えと敏感さだ。親身になってあげればあげるほど、かわいがってあげればあげるほど、彼女はそれを吸収し、生き生きと輝く。期待に応えようと、健気なほど一生懸命になるのだった。そこに打算や見栄などはない。職場で役に立っていることが嬉しくて嬉しくてしょうがないようだった。それが美彩の「輝き」。  こういう明るい子なのに、一人でいるときのあの泥のように暗い目は何なのだろうか。そこにはやはり園長先生の言った『重い背景』というのがあるような気がしたのだった。 「……んっ、……うんっ、……ふっ、……いい、……竹田くん……」 「美彩……、かわいいよ……。大好きだ……」  日の出に合わせセックスを始めようと、今朝まだ暗いうちから寝室から庭にマットレスを引っ張り出し、屋外閨房をこしらえたふたりだった。すでに全裸で上下に重なりあい熱いキスと愛撫を交わしている。よほど乳房が好きなのだろうか。 「ううーん、竹田くんったら……、おっぱいばっかり……、んんっ……」 「だって、美彩のおっぱいに一目惚れしたんだぞ。何よりもおっぱいが……、優先……」  揉まれ続けて美彩の乳房は桜色に染まっている。私の乳房よりはるかに小さいくせにあの敏感さは何だろう。竹田くんの指先が先端にちょっと触れるだけで、電流を通したようにピンッとからだを震わせるのだった。
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