儀式

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 母親にやられたのだろうか。それとも同居していた男にやられたのだろうか。どっちでもいい。こんなに素直でかわいい娘のからだを醜くした悪魔どもが赦せなかった。親でありながら、人間というものはここまで醜くなれるのか。この残酷さ! この不条理!   熱かったろうに。痛かったろうに。悲しかったろうに……。  誰かに助けを求めようとは思わなかったのだろうか。保育園や幼稚園の先生たちは? 小中高とおして大人は誰も彼女の傷に気づかなかったのだろうか。なんて痛ましい、なんて残酷な幼少年時代を過ごしてきたのだろうか。 ──あやちゃんがわるいこだから。あやちゃんがいつもおかあさんをおこらせるから……。  幼い美彩のたどたどしい声が聞こえてくる。心とからだに深い傷を覆いながらも、母親の愛と優しさを辛抱強く待っていた幼い美彩。健気な幼な心はたとえ一瞬であっても満たされることはあったのだろうか。すべての子どもが受ける権利を有している「愛」を、「優しさ」を、「保護」を、美彩は一度でも受けたことがあっただろうか。  涙がとめどなく溢れて来た。私は悲しんでいるんじゃない。悔しいのだ。こんなに素直でいい子がどうしてこうも虐待されなくてはいけなかったのか……。  竹田くんの深い愛に感謝した。火傷痕のひとつひとつにキスを落としている彼の存在は、この世で最も美しく貴重なものに思えた。美彩は今やっと報われているのだと思った。 ──大丈夫! 美彩、大丈夫だよ。あなたは絶対子供を虐待するような母親にはならない。だって竹田くんにこんなにも愛されているんだから。ゼッタイしあわせつかめるよ!
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