レンタル会社との契約

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 身体にはだるさが残っていたが、意識面では麻酔後特有の朦朧とした感覚は一切なかった。本当に手術がなされたのか不安になったほどだ。夏子さんがフットスイッチを踏むと検診台の背中がゆっくり上がる。検診台に座らされた時と同じ態勢に戻った。身体には痛みも違和感もない。服の乱れもない。ただ、ブラウスの下にブラがなかった。 「あ……、ブラが……」 「明日の朝まで着用禁止です」  看護師が平均的にかわいいほほえみを浮かべ、ブラを紙袋に入れ渡してくれた。 「どう?」  夏子さんがブラウスの上から私の乳首に人差し指を押し当てた。何も感じなかった。 「じゃ、こうしたら?」  左右の乳房が優しくつかまれた。やはり何も感じない。先輩の手だけが異次元空間に抜けて行くような不思議な感覚だった。駅の階段を上るときも、電車が揺れる時も、私の揺れるはずのものが揺れない。もともと揺れるほど大きくないというのもあるけど、胸だけが空洞になった、変な気分だった。  家に帰るなり姿見の前に立ち、服を脱いだ。まず胸が空洞になっていないことに安心した。  20年間慣れ親しんできた乳房ではなかった。形の大きさも色も微妙に異なっている。  形よくまとまっている膨らみの頂上にくっきりと輪郭を浮かべた薄栗色の乳輪。そこに小豆のような乳首がちょこんとかわいく乗っている。 「いらっしゃい、私のおっぱい」  両手で二つの丸みをすくい上げてみると、 「えへへ」  双子のやんちゃ坊主のはにかんだ笑い声。なぜか、二人とも男の子だな、と思った。
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