同じお茶の味

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「シャワーありがとうございました」 「あ、すっきりした? 二日酔いの時ってシャワーいいよね」 「あの、彼氏さんにも悪いので、僕帰ります」 「え?」 「だって、男物の、」 「ああ! シャンプーでしょ? あれ、私が使うの」  それは無理な言い訳だろう……僕は少し鼻白んだ。 「夏って、ミントのヤツ使いたくならない? どうしてもあの強いスースーがいいんだけど、女子用は無いのよ、ああいうミントもの」  ミユは至って普通に話していて、全く気にせずにお茶を出してきた。 「タカトシ君、いくら私でもね、彼氏がいるなら男の子たち泊めたりしないよ~! ここはほぼ公共の場だから」 「公共の場?」 「詩集図書館でしょ、ここ。私はここの館長さん。来た人は私の権限でもてなします」  ニマっと笑って、ささ、粗茶でもあがるがよい、とお爺さんみたいな言い回しで彼女はお茶を勧めてくる。僕は思わず噴き出した。 「……もし、館長さんに彼氏ができたら、詩集図書館は閉館なんですか?」 「うーん、彼氏の心の器の大きさに寄るかなあ……」 「ミユさんの彼氏は大物じゃないと無理そうですね」 「私がやってることを理解して、一緒に図書館を管理してくれる彼氏なら最高なんだけどな~。そういう人材はなかなかいないよ」  体操座りで両手でマグカップを包んで、ちょっと上を向きながらミユは呟いた。朝日に照らされたその様子がとても、とてもいたいけで。 「……僕なら図書館閉めなくて済むと思いますけど……?」 「え?」 「だから、僕なら図書館は存続可能なんですよ」 「ん? タカトシ君……?」  朝の光で作られた僕の影がミユに落ちる。好きな人に対して身体は勝手に動くものなんだとこの時僕は知った。 「館長、僕を雇ってください」 「お給金、払えません……」  僕のすぐ側で彼女が丸い瞳で僕を見上げる。  彼女の首に腕を回し、反対の手で頬を撫で顎を摘んだ。  誰にも教わらなくてもこういう事ができるように、人間って身体にプログラミングされてるのかもしれない。そうだよな、人はずっと何千年も続けてきたんだもんな。だから僕も彼女もここにいる。 「……支払いはこれでいいです」  ミユと僕の唇はおんなじお茶の味がした。
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