おさな遊び

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おさな遊び

「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお」 僕はかくれんぼの天才だ。 「ろーく、ななー、はちー」 一か八かだけど。一位になる事が多いんだ。 「きゅうー、じゅうー」 よし!始まりだ! 「もういいかーい? 」 「もういいよー!」 みんなが隠れ終わって、返事をした。 僕は必殺技を使う事にした。 今日は見つかるかな? 僕の必殺技。かくれんぼマスターの僕。 君だけに教えるよ。 鬼の後ろに隠れるんだ。 ビックリ? ずっと鬼の後ろに隠れるんだ。  鬼に着いていくんだ。 同じ所にいちゃだめだよ。 これで僕はよく最後まで残ったんだよ。 鬼はいつも驚くんだ! 君もビックリしたかい? 夕暮れ時、日が沈む頃。公園のブランコが揺れた。ギシギシと音をたてる。子供たちはそれぞれ遊んでいる。そろそろ帰る時間だろう。 かくれんぼ、鬼ごっこ、ダルマさんが転んだ。 公園は遊びの宝庫。遊具だけで何時間も遊べる。 その様子を眺めていた。胸元のネクタイを緩めた。少し暑い。汗ばんできた。 僕はかくれんぼが好きだった。 君に攻略法を教えたっけ。 二人で隠れるからすぐ見つかるようになっちゃってさ、なかなか上手くいかなくなってさ。 でも楽しかったよ。 君が越してきて、僕達はすぐ遊ぶようになった。 転勤族の君の父親。また君は引っ越す事になった。楽しい時間はあっという間に過ぎる。 子供には、親の仕事なんてよくわからない。 僕は泣いたよ。 君も泣いていたね。 もう遊べなくなると思うと寂しくってさ。 遠くに行くと思うと悲しくってさ。 だから僕達は約束したんだ。 これから二人で、かくれんぼしようって。 じゃんけんはしなくていいよ。 僕が鬼になる。 僕はかくれんぼマスターだから、君が「もういいよ!」って言ったら必ず見つけるって。 いつでもどこでも見つけるからね。 大丈夫、自信があるんだ。 君は僕の必殺技を使うかな? そしたらさ、僕も見つけれると思ったんだ。 単純にさ、探せば見つかると思ってたんだ。 ねえ、覚えてる? でも「もういいよ! 」 なんて、ずっと聞こえなかった。 変だなって思った。 遠い所に隠れたかなって。 だから声が聞こえないのかな。 それとも、もう忘れてしまったのかな。 僕と遊ぶのが嫌になったのかな。 かくれんぼ。 出来ないのかな。 今日ももう、帰る時間…… 小さな僕はいつも待ってた。 何の遊びをしても待ってた。 いつでも準備してたんだ。 君の事が好きだったのかもしれない。 僕は幼すぎてわからなかった。  今思うと、攻略法を教えたのは君だけだった。君と二人で隠れるのが楽しかった。君がいつか帰ってくると信じて疑わなかった。もう一度会える日が楽しみで仕方なかった。君は僕と同じで、いつも僕の事を考えていると思っていた。君の事が好きだったんだ。  日が沈む。母親達が子供を迎えに来る。みんな、手を振り家路に着く。 僕は砂場で三角の山を作っていた。 一人ぼっちで。 今日も君は「もういいいよ!」って言わなかった。 僕のお母さんが、走って来たんだ。 僕は帰りが遅いと怒られるかと思った。 違った。 君の嘘つき。 もう大嫌い。 約束したのに! 僕の必殺技だって教えたのに! 君のバカ! バカ!バカ!バカ!  幼い僕は理解するまでに時間がかかった。ようやくわかったのは、中学生になった頃かな、でも実感は沸かなかった。  いつまでも君は隠れていると思ってた。思いたかった。「もういいよ!」ってすぐそこで、聞こえる日を待っていた。  振り返ると君がいて、「みーつけた!」そう言いたかった。  大人になるにつれて、忘れていった。仕事の事や、対人関係、家族の事。考える事が多すぎて。時に何かを忘れる事も必要だった。  公園に来ると思い出すんだ。君の事。たまたま仕事帰りにここへ立ち寄った。今の僕なら君を見つけられる。手元のスマホの電源ボタンを押した。そのまま画面は暗くなった。  君の病気が見つかった。  果たすことの出来なくなった約束を思い出す。かくれんぼ。僕が鬼で、君が隠れる。 「……よいしょ」  ブランコから立ち上がった。 「もういいかーい? 」 「まーだだよ! 」 「もういいかーい? 」 「もういいよ! 」  本当の嘘つきは僕だ。僕には守るべきものが増えた。君を忘れる事も次第に増えていった。君との思い出に区切りをつけるつもりだった。  そして何より、君は僕なんかよりも一日一日を必死に一生懸命生きている。  そう思うと、ちっぽけに思えた。僕の思いも。約束すらも。  君はもっと、ずっと遠くにいるんだね。  僕は心の中で数え始めた。  一、ニ、三。大人はずるい。君の事だって、本当の事を教えてくれなかった。  四、五。だから、僕はずっと待ってたんだ。  六、七。知らずにいたんだ。君はすぐ元気になると信じてた。  八。君は今何を思っているんだろう。もしかして、まだ続きをしてるのかな。そんな事なんてないか……  九。病室の扉を開けられなかったのは僕だ。一番ずるくて嘘つきなのも僕だった。 「だって、僕たち約束したんだよ! 」 「どうしてお母さん、そんなこと言うの!? お母さんは何も知らないくせに! ]     十。もういいかい?  僕はまた日常に戻るよ。いつもの僕に戻るよ。ごめんね。最後まで見つけられなかった。   「もういいよ! 」  振り返ると大人になった君が後ろで笑っていた。          ごめんね、ごめんね。  僕はかくれんぼマスターじゃなかった。  鬼になるのは苦手みたいだ。  隠れてばかりで、逃げてばかりで。  向かい合うのを避けていた。  僕は君を探しにも行かなかった。  怖くて背を向けたまま、  何も見えないふりをしていた。  待つことしか出来なかった。  僕は公園を後にした。  
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