東京

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サイン会は当初の予定時間を大幅に過ぎても終わる兆しを見せず、予備分として納品していた分も完売したところで打ち切られ、終わった頃には控え室の半分ほどが花束やプレゼントで溢れかえっている状態だった。 いち作家とは思えないこの人気も出版社としては有難い事ではあったけれど、こんな人気を背負いながら新しい作品を書き続けられる彼の精神的な強さをまじまじと思い知り、プレッシャーを感じたりしないのだろうかと山のようなプレゼントを見つめていた。 彼はタバコの香りを纏わせてソファーへと腰掛けると、書店に置いていく分の本にサインを書くため油性ペンの蓋を開けた。 「どうするの?これ。全部持って帰るの?」  「いや、このまま書店の人に処分してもらうよ」 「食べ物とかは手をつけない方がいいけど、他のものは持って帰ったら?手紙とか」 「その手紙を読んだって今日来た誰がそれを書いたのかなんて僕にはわからないし、読んだところで返事を出すわけじゃないだろ」 「でも、あなたに読んでもらえると思って一生懸命書いてきたんだと思うけど」 「そうだろうね。でも読まなくたってわかるよ。僕の作品がどう好きかっていう似たり寄ったりな話が詰まってるんだ。それか僕をどれだけ嫌いかって理由を書かれているか。どちらにしろその内容には興味がない。ここまで足を運んでくれて、それに笑顔で僕が応えたところで話は完結してるんだ」 彼は持っていた油性ペンを軽く振ると、次の本の見返しを開いた。 「なぁ。それより今夜、会えるだろ?」 「奥さん帰ったの?」 「ああ、今朝帰った」 「会いたいけど今日は打ち上げなんじゃない?初刷りで重版決定してたし、初めてのサイン会だったからお店も抑えられてると思うけど」 彼は私をチラッと見たあと、また次の本へと手を伸ばした。 「そんなの行ったって仕方ない。君もだろ?」 「そうも言えないでしょ」 「はい、書いたよ。持っていきな」 彼は油性ペンの蓋をしめると、最後の一冊を上に積み重ねた。 私は彼のもとへと近づきサインの書かれた本たちに手を伸ばすと、そのまま彼は私の腕をぐっと引き寄せて、自分の隣へと座らせた。 「...何するの...」 「なんだろうね」 彼は私を見つめたまま私の太ももに手を置くと、スカートを少しだけ捲った。 「ねぇ、やめて...」 そんな言葉では止まるはずもない彼の手が内腿に近づくと、私はその手の感触に思わず体がびくっと揺れた。 「どうした?久々だから?」 「...なに?」 「いい反応するね」 彼はゆっくりとスカートの中へと手を伸ばす。 「待って…こんな事しないで…」 「いつもしてるだろ」 「ここじゃヤダって言ってるの…」 「でも、女の方が喜んでる場合はどうすればいい?」 「喜んでなんかない……」 彼は私の下着を横に寄せようとしたので「...ねぇ、ほんとにやめて...誰か入ってきたらどうするの...」と手を抑えた。 「ノックもしないで?それはないだろ」 彼は私のスカートをスッと直して『残りは夜しよう』と耳元で囁いた。
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