東京

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. . . ようやくこの頃、彼から貰ったブラックカードの使い道がわかってきた。 1つ目は、会えない間の時間潰しとして使う。 2つ目は、彼の隣にいても恥ずかしくない女であるよう、自分を磨くために使う。 ただそのどちらも、寂しさを紛らわすために使っていたというのが本音だった。 とにかく時間が余るのだ。 平日は朝から晩まで働き疲れて家に帰るからまだいいとしても、土日の2日間がまるっと残っているとなると流石に家にずっといては心が参りそうで、やたら外に出かけた。 美容院も近所の美容院から南青山にある芸能人御用達の有名サロンに変えたし、週末は必ず銀座や伊勢丹などの一流ブランド店に行って、値段も気にせずいろんな物を買った。 どのショップ店員も私がお金を使うのをわかっているから、接客にだって熱が入る。 最初は私に付きっきりで申し訳ない気持ちもあったのだけれど、買う気なんて全くないウィンドウショッピングの客や、自分の試着姿をストーリーにあげたいが為に来店する女にだって接客をしなければいけないのだから、2時間話し込んだ結果、80万のバッグを買ってくれるなら私は悪くない客だと思う。 特に初めて彼に連れて行ってもらった表参道の高級ブランド店は、私の行きつけの店になっていた。 上品な黒のワンピースに身を包んだいつもの彼女と話しながら買い物をする時間は、私たちの関係を認めてくれている唯一の人と話しているようで、何とも気が楽だった。 彼女は彼と私の関係性を最初からわかっていて、お互いが明確に口にしなくとも暗黙の了解というのが成り立っており、その居心地の良さから百万単位の買い物をすることも少なくなかった。 もうお金に糸目はつけない。 自分が大富豪になったかのように惜しみなく金を使って、時間を潰した。 時間をお金で買うというのは本来、お金で"自由な時間を増やす"という意味だけど、反対の意味でも使える言葉なのかもしれない。 家に帰れば丁寧に包まれた薄い紙を乱雑に剥がして、ほとんどがクローゼットの中に仕舞い込まれるだけだったけれど、買っている時間だけは寂しくなかった。
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