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「今週末、作家の集まりがあるんだ」
「集まり?」
いつものスイートルームでソファーへと腰掛けていた彼は私に声をかけた。
「同じ大学を出た作家とか翻訳家で食事をするんだ。何年かにいっぺんね。世代は違うけど同窓会みたいなもんだよ」
「じゃあ週末は会えないのね」
彼はその言葉に腕時計を外すと「連れて行こうかと思ってる」と言った。
「...何を言ってるの?私なんか連れて行ったらダメでしょ」
「行きたくない?」
「そうじゃなくて、あなたが結婚してることも知ってるんでしょう?なのに愛人の私を連れて行ってなんて紹介するの?妻ですって言うわけ?」
「そうだね。一度も彼らに妻を会わせた事はないし、君も愛人ですとは言われたくないだろ」
「そうだけど…それは私に奥さんのフリをしろってこと?」
「君が行きたくないなら構わないよ」
いきなり奥さんのフリをしろと言われても、そんなこと出来るだろうか...
そもそも作家の男なんてズケズケと失礼な質問をしてくる人が多い上に洞察力はずば抜けて高くて、警察と同じくらい鼻が効く人たちなのだ。
そんな中に私は入って、お開きの時間まで"偽の奥さん"を突き通す事なんて出来るだろうか。
「みんな奥さんを連れてくるの?」
「結婚してるやつらはね。半分くらいじゃないかな」
彼がどうしてそこに私を連れて行こうとしているのか、全く理解が出来なかった。
奥さんも連れて行った事がない場所に、私を連れて行きたい理由はなんだろう。
ふとボロが出て、まるで尋問のような展開になったらどうしようかと不安もあったのだけれど "彼の奥さん" という立場をリアルに味わってみたいという好奇心というか、願望が勝った。
「変な質問されたら、あなたがどうにかしてくれる?」
「隣にいるから平気だよ」
「なら、その指輪は外していって。書くのに邪魔なんだとか、どうにでも言えるでしょ?」
「ああ、わかった」
私はその週末。
連れて行かれた北品川のフレンチで、彼を合わせた5人もの作家がいたというのに、自分でも驚くほど上手く"彼の奥さん"として振る舞う事が出来た。
殆どが最近の文学傾向についてという話題で、馴れ初めとかそんな事を聞かれなかったというのもあったけれど、奥さんのフリをするのはそんなに大変な事ではなかった。
話したくない事には微笑んでその場をやり過ごし、意見を聞かれれば反論せず少しだけ自分の知識を話す。
そして必ず最後に他の人たちに嫌味のない程度、彼のことをたてた。
そんな私を見てか作家の男たちは終始、私の事をしきりに褒めた。
自分の奥さんを隣につれた男までが、こんな綺麗な容姿で文学の話を出来る女性を妻にしているのが羨ましいと話したほどだった。
普段はこういった付き合いは面倒くさそうに微笑んでるだけなのに、この日の彼は珍しく持論を語って彼らをひとしきり笑わせたり、先輩に注がれたら断れないと、いつもより酒を多く飲んだりして真面目な話し合いに彩りを添えた。
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