捕食する日々

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 暗い部屋の中で、ゲームをしていた。  巨大なモンスターを討伐するゲーム。  最近のゲームは変にリアルで、モンスターを放置して様子を見ていると、他の小型モンスターを捕食したりする。自然の序列のような部分まで作りこまれている。そして、一部のモンスターは討伐しようとしているプレイヤーすら捕食しようとしてくる。  その捕食の描写がほんの一瞬なのだが、モンスターに掴まったプレイヤーが大きな口に一飲みで食われる姿は変にリアルで、僕は怖かった。  食われたプレイヤーは、すぐに復活する。そこらへんは、ちゃんとファンタジーだ。  僕は一晩、その捕食するモンスターに挑み続けたが結局討伐することはできなかった。  諦めて、ゲームを電源を切って、部屋の電気をつける。部屋が暗いのはちょっとした癖のようなものだった。  部屋が暗いと、例えば飲み終えたペットボトルのゴミだの読みかけで本棚に戻してない本だの。そんな僕の部屋に散らばる現実の破片に気を取られなくなる。没入感が高くなるのだ。  小さい頃はホントにそうだった。多分、まだ一つのことに集中する能力が未発達だったのだと思う。でも、多分今は電気をつけても集中してやれる気はしている。ただの気分なわけだ。  眠気はあるのだが、それ以上に空腹だった。なん時間も前から何か食べようとは思っていたが、モンスターを倒すのに躍起になっていて結局、何も食べていなかった。  外に出ると、朝の9時だというのに痛いくらいの日差しに襲われた。棒のように細く、不気味なほど白い腕を日光に当てると少しだけ、水をえた植物のように全身が漲るような感覚がする。  家のすぐ近くのハンバーガーチェーン店で、バーガーを買って逃げるように部屋に戻った。  包み紙を開くと、食欲をそそる匂いが部屋に充満していく。朝に食べるには少し重いかもしれないと思ったが、この匂いによって食欲のスイッチが本格手に入った。  口を大きく開けた瞬間。ふと、捕食の意味を考えた。  それは、さっきまで散々巨大モンスターに食べられていたせいでもあるが、僕にとって目をそらせない問題でもあった。  ゲームの中のモンスターはプレイヤーに斬られ、傷だらけになりながらも捕食行為を行ってくる。小さいモンスターを食べるときも、全力で追いかけたり、音立てずそっと近づいて一瞬で命を奪う。  でも、目の前の食料はなんと無様なものだろうか。ハンバーガーが僕に反撃してくることは無いし、逃げることもない。僕もこんなものを食べるのに全力を出さない。  悪い癖だと思いながら、僕は齧り付いた。  口の中に肉の味が広がる。  あっという間に平らげてしまう。  なんだか、活力が湧いてきた。眠気もだいぶ落ち着いてしまった。仕方なく、またゲームを起動した。今度は部屋の電気はつけたまま。  すると、あっけなくモンスターの討伐に成功してしまった。あんなに何度もやられていた捕食の攻撃をすべて避けることができた。  ゲームの中では主人公がモンスターを倒したことで、彼の村のみんなが歓喜していた。持ち帰ったモンスターの死骸を捌いて焼いて。皆で火を囲んで祭り騒ぎで食べていた。  その光景が、少しだけ気持ち悪くて僕はまた電源を切ってしまった。
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