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αの香りが広がって、ラットを起こしかけているのが分かる。その香りにΩが反応してしまう。
近衛兵は、眉間に皺を寄せて、「誰かっ、誰か来いっ」と大声で叫んだ。
掴まれた腕が痛い。だけど、その痛みでヒートを少しでも誤魔化すことができる。
お互い見つめあったまま動けない。
「誰かっ」
近衛兵は何度も大声で叫ぶ。
早く誰かが駆けつけて引き剥がしてくれないと、事故を起こしかねない。
「ご、ごめんなさい」
小さな声で謝ると、「大丈夫。きっとすぐに人が来てくれます」と返事をした。
近衛兵は自分を制するために唇を噛み締めている。掴んだ腕を離されそうになって、「離さないで」と慌てて告げる。
「ですが、あなたを傷つけてしまいます」
はぁはぁと荒い息を継ぎながら言われて、「すいません。発情期を抑えるのに、痛みで誤魔化したいんです」と願った。
「僕は、事故なんて起こしたくない」
『俺のΩ』と言ってくれたセナを裏切りたくない。
自覚したばかりなのに、セナを好きだと自覚したばかりなのに、バースまで失いたくない。
引かれ合う運命にあるなら、今すぐに助けに来て。
「セナっ、セナァ……助けてっ、セナっ」
俺が守ると初めてここに来た、あの日の約束を果たして欲しい。
僕を今すぐ、守って欲しい。
近衛兵の腕を掴んだ手に力が入る。
遠くから複数人の足音が聞こえて、人の声が聞こえる。
「レイッ」
大声で叫ぶセナの声がして、腕から力が抜けてしまう。近衛兵は後ろから掴まれて床に押し倒された。僕は掴まれたまま床に投げ出された。
「お前っ、何をしたっ」
セナが近衛兵の腹に膝を押し当てて身動きを取れなくすると同時に腰に刺した剣を抜き取って切先が喉に向かったのは一瞬だった。
「セナッ、ダメ」
セナを突き飛ばした。周りには近衛兵と侍女が集まっている。
「この人は、僕を助けてくれたんだ」
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